「日本のお婆ちゃん」って言葉が持つイメージとしては、団塊の前の、つまり戦前から戦中世代のおっ母さん達がピッタリでしっくりくるんですな。でもその年代はもう80歳を超えるわけで、多くは既にご逝去なさっておられる。
しっかりと伝承されて今も受け継がれている「おばあちゃんの料理」も沢山あるので、一安心というか、やっぱり日本人は和食が好きなんだなぁと安堵感みたいなものを感じます。団塊の女性が母や祖母から受け継ぎ、それを女性の娘世代が習得する。
ガラガラガラと大きな音を立てて崩壊してきた和食ではありますが、その一方でこうして昔の和食を守ってきた女性たちも大勢いらっしゃいます。ひとりの日本人として、こうした女性達に心から感謝と尊敬の念を持っています。
「時代」を上手に受け入れながらも、昔からの伝統も忘れないし、先人たちが残した和食の伝統の中に新しい価値観を持たせる能力もある。本当に素敵な方々だと思います。後に続く若い世代にも、その魅力的な姿が伝わって行って欲しいですねぇ。
栄養士さんを育成する学校などを訪問して学生さんを見てみるに、「今の若い娘もなかなかのモンだ」と感じますので、伝わっていくと信じていますけどね。
近年は「おばあちゃん料理」が見直される傾向が続いておりまして、それは栄養学の進歩と消費者の健康志向によるものだと思えます。従来の5大栄養素重視の風潮が、「新たな栄養素」の発見とか「大事なのは酸化の防止である」とか、そういうものを重視する方向に舵を切ったのですね。
そういう事が解ってくるにつれて、「昔の和食」がいかに理にかなった「健康食」であったのか、それが次々と「再発見」されている状況です。2000年代に入ってそれはもう「公然たる事実」として広まり始めましたけども、実はかなり「遅かった」というのが本当にところです。
30~40年前から欧米では常識化していた事柄ばかりなんですね。日本でこうした常識が紹介されるようになったのは80年代初期あたりでしょうか。「丸元淑生」さんが分かりよく解説してくださった事が大きいでしょう。自分は、「丸元以前」と「丸元以降」という分け方で、日本の食状況の現代史を俯瞰しています。
一方で「健康食・健康飲料」が流行しながら、実は頑ななまでに「丸元以前のメンタル」が続いていましてね、それはもう20年以上も変化なし。漸くにしてというか、21世紀も数年が過ぎたあたりから、「丸元氏が大昔に言っていたことを、さも21世紀の新発見みたいに書いている書籍」が本屋に並ぶようになりました。やっと時代が丸元さんに追いついたという感じですが、まぁそれでも「本当の事が広がる」のは嬉しい事です。
危惧するのはこうした知識を「新興宗教」のように先鋭化してカルト化する人達の出現ですけども、こういう人種はどんな時代でも必ず存在するので、もう仕方がないことでしょう。
一つの事にのめり込むのは大事なことではあるんですが弊害が大きい。バランスと多面的な視線を持つように努力したいものです。
色で見分けるベテラン栄養士
そういう訳で、「おばあちゃん料理」というのは今や検索すれば山のように作り方などが出てくる時代です。おいらから指摘しておきたいのは、婆ちゃん達の料理は「異常なほど野菜の使用頻度が高い」という事実。
ときには「野菜がメイン」「野菜が主食」という程のレベルです。
そして野菜同士のバランスが良い。
「芋を煮れば青菜をプラスする」という事ですね。
加えて「ほぼ必ず加熱して食べる」ということ。
今の人は「生サラダが健康的」というイメージが先行してそれを事実と思い込んでいる方が多数でしょうけども、野菜は蒸煮、あるいは揚げ炒めしたほうが合理的なんですよ。その方が体にも良いんです。
それには色々な理由がありますが、最重要なのは「かさが減って量を食べられる」ということ。今流行っているダイエットに「かさばる料理を食べて痩せる」というのがありますけども、野菜に限って言えば正反対です。
特殊な成分を持つ例外は別として【野菜はいくら食べてもいい】んですよ、他の食材と違ってね。
野菜はいくら食べても大丈夫。
おかずにつられて「肉類」「ごはん」その他の食材の量が増えてしまうのが問題なだけなんですよ。
婆ちゃん達の世代が食べていた野菜量に比べれば、今の人は3分の1も食べていないと思います。
「抗酸化栄養素」とか「フィトケミカル」とか、そんなヤヤコシイものなど知らない婆ちゃん達が、なんで驚くほど栄養バランスの良い料理を作れたのか?
これはね、【料理の五色】です。
目で、つまり色彩感覚で料理を作っていたからだと思います。
「しょう、おう、しゃく、びゃく、こく」
この言葉は大昔から和食の世界に存在します。
緑色、黄色、白色、赤色、黒、
おおかたの野菜はこの五色が元になっています。
この色素こそが、今では「抗酸化栄養素の塊」だと分かってきています。
そんな栄養ウンヌンが分かってきたのは近年のことですから、もちろん婆ちゃん達が理解していたわけではないでしょう。
「じゃが芋の煮物に人参を足せばキレイ」
「最後に青菜を加えたら清々しい」
このような「感性」が、結果として栄養バランスの良い料理につながっていたんです。
これを書いてましたら、何故か無性に「芋の煮物」が食いたくなってきました。さっそく野菜をぶち込んだ「おばあちゃんの料理」を作って食べることにします。久しぶりに「婆ちゃんの味付け」も再現してみましょうかねぇ。あ~腹がすいてきた(笑)
究極の健康食とは何か
料理というのは結局のところ「おもてなし」です。
「食べる人に喜んでもらいたい」というのが原点なんですね。
しかし長年料理作りを繰り返しておりましたら、徐々に原点を忘れるというか維持できくなって行きます。
これは職業料理人も家庭人も同じことです。
「技工に走る」「商売に傾き利益優先の思考になる」
「惰性に陥る」、そんな風になってしまいがち。
惚れあった連れ合いといえども年月を重ねると愛情そのものが薄れるように、何であれ原点を維持するのはとても難しい。「初心忘るべからず」なんて口で言うのは簡単ですけどね。
料理人も含め、向上心のある人というのは、いつの日か必ず「壁」に突き当たってしまいます。「限界」みたいな、「もうこれ以上は無理か・・」みたいな、そんな壁です。
その「壁の日」が来た時にね、「おもてなしの心」つまり「原点・初心」。それが鍵になってくるでしょう。
技術では越えられない壁でも、「心」でなら越えてしまえるんですよ。
人様の些細な言動に感動する心
人様の思いやりに反応する素直さ
誰かが喜ぶ姿に心躍る精神のあり方
「自分の壁」を越える方法は、そうした在りし日の素直さを取り戻すことに尽きるのです。
それを理解できないままであれば、どんなに技術を磨いて料理のスキルが上がっても、壁を越えることが出来ないか、そもそも壁すら出現しないで終わるでしょう。
壁が出てこないというのは、「より良い料理」を作ろうという気持ちを失っていることを意味します。それは「人様を喜ばせようという気持ち」を失くしたか、それとも最初から無いか、どちらかでしょう。
昔のおばあちゃん達というのはね、「自分以外の者」を喜ばせる生き方をしていました。「家族の為に自分の人生を捧げてしまう」と言える程です。
苦労の連続ですが、そんな人生に耐えられた理由は「人が喜ぶ顔が嬉しくて」苦労を忘れることが出来たからでしょう。
ここから学べることは、
「他人を喜ばせるには代償が必要」ということ。
昔の板前というのは、修行時代の下積み苦労が半端ではありませんでした。その苦労を「代償である」と分かっている板前は、かなり早い段階で調理長に出世するものです。
もしも「苦労の為の苦労」だと思い込んで苦痛しか感じない者であれば、脱落していたか、凡庸な料理人で終わっていた筈です。
「おばあちゃんの料理」を作りますとね、その事を思い出すことができるんですよ。祖母の「芋煮」を再現して眺めていると、「これから先」や「壁の向こう側」などが見えてきたりします。
「最新の栄養学」「芸の域に達した職人技」
そんなものさえ超えているのは【人をおもいやる心】ではないでしょうか。自分は、それこそが和食が健康食であった秘密だと思っています。
昔ながらの和食を放り捨てて、中途半端な科学でどんどん新しい料理(添加物だらけの)を作り出してきた戦後の日本。
しかし、最新の21世紀科学は「昔の和食の方が健康的だった」と示唆しております。皮肉というか、「ひと回りした」と言いましょうか。
料理を提供する者として、この事実を無視してはならないし、教訓として心に刻み、「本当に和食は健康食である」と認められるように努力すべきであると思う次第です。正しい栄養学は、それを側面から支えてくれるでしょう。
2013年09月28日のblogより
この記事へのコメント
和食と健康をリニューアルしました(2014年10月21日)
あっという間に10月も後半です。
Blogの更新をサボって遊んでいたわけでも、飲んだくれていたわでもありません。実はサイトを作っておりました。
仕事もしなきゃいけませんので、サイト作業の時間は限られております。なので、長い長い時間がかかってしまうというわけで、よくもまぁそんなモンをシコシコと続けられるもんです(笑)
まぁ、なんでもコツコツとやり続けるしかありませんからね。
「楽な方を選ぶ」というハヤリのやり方なんぞ、おいらの不器用なオツムでは無理ですし。鼻っからそういう選択をする気もありません。
というわけで、何年も前から、「つくり直さないと」と思いつつも、手を加える暇がまったくないまま放置していた『食と健康』のコーナー、やっとこさチョットだけ直すことができました。
仕事や人間関係、「高尚なモンとやら」に振り回されるのも結構ですが、人間の基本・人生の基本は「健康な体」です。
カラダがきかなくなれば、高尚とやらも終わりですよ。
「失って初めて気がついた」
そんな事にならぬよう、食と健康の関係には留意し続けたいものですね。
年配の方はいかに「健康寿命」を延ばすか。
病体じゃいくら長生きしたって意味ないですからね。
お若い方は、どうやって子供らを心身ともに頑健にするか。
メタボに育てちゃ、子どもが可哀想ですよ。
それにね、甘いもん・添加物だらけの加工品、そんなモンを食わせ放題にしていれば、取り返しのつかないことになりかねません。
思春期までは「親の責任」だということを肝に命じるように願います。
そういった事に少しでもお役立て下さいませ。
ご覧いただけましたら幸いです。
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