前菜のコツ



和食前菜

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和食の前菜とは

茶懐石では、最初にお茶が出た後、飯、汁、向こう付け、煮物、焼き物、強肴、箸洗い、この強肴(和え物や酢の物等)のあたりで酒が出ます。ここで山海の珍味を盛った『八寸』というものが出てきます。この八寸と、付け出しが、懐石や本膳を崩した会席で相まって、現在の日本料理の前菜になっています。

いわゆる前菜というのは、フランス料理のオードブルですから、和食にはそれに該当するものはありません。類したものと言うべきで、中華では「フンペン」、イタリアでは「アンティパスト」、日本では「付け出し」(先付)がそれになります。

しかし「前菜」なる語が定着していますので、これはもう日本語であり、和食のメニューだと考えても、差し障りは無いでしょう。趣向と技を凝らした前菜は、店や板前の腕の振るいどころになっている感があります。この中には、覚えておくと家庭料理でも何かの時にきっと役に立つ技術もあります。

現在和食は会席料理が主流になっています。
公卿から武家へと継がれた本膳形式や、侘び寂を旨とした茶人が修行僧の質素から命名した懐石も、今では特殊な料理となり、普通の店で召し上がる事はできません。

懐石と八寸

懐石は茶道と一体で発達しましたから別としまして、本膳では一の膳(本膳)が出る前に酒宴膳というものを出します。簡単に言えば酒の肴です。一方、懐石は最初一汁二菜か一汁三菜で簡単に済ませていたものが、段々に品数を増やし、煮物椀、焼き物、強肴、箸洗い、香の物、そして「八寸」を出すようになりました。これは途中で酒を出す様になった為です。八寸とは八寸四方の杉盆に、山海の珍味を二種盛りにしたもの。

この八寸や酒宴膳、そして通し肴(お通し)、先付け、つきだし、これらが混然一体となりつつ進化した料理が前菜と呼ばれています。

八寸にフランス料理のオードブルの華やかさを取り入れ、現在の和食前菜の先鞭をつけたのは吉兆あたりでしょうか。以来懐石の形式に拘る事無く、自由な発想で板前の腕を振るう料理になったために、もはや八寸、前菜、酒宴膳などの区別などなくなり、各料理長の献立采配ひとつでいかようにもなりますから、懐石料理であると特に断りがない限り、逆にお客様には理解しにくい部分も多々あります。板前により流儀の違いなどもありますし、宴席の目的によって変える必要もあります。

前菜というのは簡単に言えば、懐石では一汁三菜の中の「向付け」(お向う・ナマスやお造りが本式)にあたり、会席では懐石の八寸を元に店の采配で先付けとして出してくるものと考えればよいでしょう。要は名前通り、料理の前に出てくる料理です。

和食の厨房には、板場、揚場、煮場、焼場、洗場などとは別に、「八寸場」というポジションがあります。ここが前菜の担当という訳です。懐石からの名だけが残っているわけで、八寸と会席前菜が融合して区別し難い一因ともいえるでしょう。このポジションが細かい細工仕事などを担当しますが、問題点もあります。

大きな板場などは配置が固定されがちで、「縦割り」になり作業の自動化が出てきます。それが続く事によって何が起きるかといえば、「細工し過ぎ」ですね。

 

これにより和食は「健康食」から遠ざかる傾向がある。見た目の「華」に心を砕き過ぎて、「栄養」に配慮しないからです。日本料理が次のステップに進化できるかどうかは、板前が栄養学の知識をものにできるかどうか如何ではないか。そんな気がします。

そんな前菜ですが、やはり基本というか決まり事はあります。
季節を無視してはならないこと
食欲をそそる作りであること
冷めても美味しく食べられるものであること
腹を満たす量ではいけないこと
これから出る料理に期待感を抱かせる内容であること



季節を演出する

季節を演出するのによく使う柿釜。

秋の趣を巧く演出できる素材です。

柿のヘタ部分2㎝弱を切り落とし、くり抜き器で中心部を抜いて、包丁を寝かせて形を仕上げ、底は水平に落とし座りをよくします。柿は熟したのより硬めが向きますが、硬過ぎれば、酒と味醂を振りかけておくと具合よくなります。そこに盛る料理はなますでも和え物でも発想次第です。そして発想次第なのは器も同様。高価な和食器も結局は「和の自然」を写し取ったものです。それならば自然の物を器にしても理に適う訳です。

見た目を良くする技巧も大切ですが、あまり材料をいじくって素材の持ち味と、そして栄養を失わない配慮をするようにしましょう。

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