魚の保存法



魚の保存・食品の保存

魚を保存する場合、活け締め、野ジメ(自然死)に関わらず、一番大切なのは血を残しておかない事です。

理由は簡単な話で、雑菌が最も好む(つまり繁殖しやすい)のが魚の血液だからです。

ハラワタを抜いておくのは誰でも知っているのですが、この血に関しては意外と盲点なんですよ。

魚の放血が大事な理由

魚の活け締めも大きな理由は同じで、延髄を破壊して死後硬直を遅らせるだけではなく、「放血」によって血を排除するのがポイントなのです。

うまく脊椎を断ち切ったとしても、放血が失敗すると血が肉に残り、魚の身を侵食して価値を下げてしまうのです。

魚の活け締め
放血に失敗して価値が下落したマグロ

とにかく完全に血合いを落としておきましょう。
血合いに庖丁で線を入れておくと楽に洗い流せます。


この時、竹ササラあるいは代わりので結構ですので、しごいてやります。


中華鍋を洗う用途などにも使う【ササラ】

ササラがなければ、使い古した歯ブラシや、竹串を数本輪ゴムでしばった物でも代用できます。



脂と体液の排出作用

血の次に魚を傷める原因は、魚自体が持つ脂や体液です。

死んだことにより保水力を失い、細胞が死滅するに従い、こうしたものが出てくるのです。

魚脂

脂が出るにまかせておきますと、表側は「あぶら焼け」しますし、内部はユルユルになってきます。

何も手を打たず放置しておきますと、まず皮目からズブズブの身になって行き、皮を剥く段階で身がボロボロになるのです。

ドリップ

魚の体液は「ドリップ」とも称しますが要するに肉汁で、細胞の変質によって出てくるものと思われます。初めは「臭みの元」になる液が排出され、それが終わると今度は「旨味の成分」が液として排出されます。

魚を塩で締めるのは前者の段階で止めておきたいからなのです。旨味を早く引き出し、同時に臭みを流し去ってしまう理にかなった方法だからこそ魚に塩はポピュラーなのです。

頭を落とす

血液・脂・肉汁、この三者に配慮すれば魚の保存は巧く行きます。

例えば、魚は頭を落とした状態にするものですが、これは冷蔵庫でスペースを取るのを嫌うからばかりではなく、頭はエラなど血が多い場所であり、きれいに血を落とすのが難しい場所で、どうしても血を残してしまうから。つまり鮮度を落としてしまうからです。

プロが行う例外もあります

と、言葉で言えば簡単でして、これでいきますと一番よいのは三枚におろした「スキン」が理想的って事になります。けども魚はそう単純なものではありません。

血を落としておくというのは共通した基本ですから、どの場合でも原則として用いて結構です。しかし、魚の脂と肉汁は同時に旨味でもありますので、その加減は魚によって、鮮度によって、また季節によっても変わってくるのです。この加減だけはプロになって頂くしか伝える術がありませんし、プロでもこれを理解してないのが大勢います。

脂を回すために腹も何も出さずそのまましばらく冷蔵庫に入れるケースもあれば、逆に焼けを避ける為に以下の様に水で脂抜きをやる事さえあります。
赤身の場合
白身の場合

そういう例外も多々あります。
ですから下記は一般的な仕方だとご理解下さい。

鮮魚の保存

まず鮮鮮魚。
最も新鮮な魚、つまり釣り上げ直後、もしくは生きてる状態から活けジメにして半日以内の状態の魚。

〆た直後(死後硬直前)

これは三枚におろしてから渡さず(片身を腹と背の二本の節にする事をしない)に、そのまま盆ザルや穴の開いたバットなどに並べて布巾を掛けただけの状態で保存します。ラップもしません。身はまだ生ゴム状態で歯ごたえはあるが味はバツ。この間に色々やると縮れる可能性がありますので落ち着かせる必要があるのです。

身が落ち着いてから節に取り、保存している平目

ヒラメの保存

魚を寝かせる意味

※「暴れる」とは
活け締めにし魚は死んでも、個々の神経細胞がまだ生きている状態で、身の収縮等が起きる。この状態で刺身に切るのが「洗い造り」や「活き造り」。〆るときに神経を抜くのは暴れを静める意味もある。(抜いてもそれほどの効果はない)
「落ち着く」とは神経細胞が完全に死滅して収縮が止まり、酵素作用などで魚のうま味成分が身に回り始める直前の段階を意味します。

死後硬直を促す(落ち着かせる)

硬直が始まるあたりから液の排出も始まります。
ここで汁を吸収させる為にキッチンペーパーや布巾で包んで、さらにラップします。
 

片身を上下に渡して血合い骨を取り去るのはこの時です。つまり二本の節(サク)にした所謂「五枚おろし」状態です。

皮引きに自信のある人は、この段階で皮を引いてから包んでおくと良いでしょう。皮脂の侵食を遅らせますし、銀を付けた状態ならば血合い焼け(身に残った血合いの色が黒くなる事)もしません。


銀皮を付けた皮引き

※皮を引いたサクにしろ、皮付きサクにしろ、ラップをすると液が蒸散しません。つまり排出した液を「吸い戻し」ます。ですのでラップをしたまま数日おくなどはいけません。包んだ布や紙が濡れたらすぐ取り替えましょう。

皮目を下に向け

(生きているのを〆てすぐに卸したものは節にしない)

布巾を被せて

このまま冷蔵庫で落ち着かせる。

落ち着いたら皮目を上にしてドリップを促す。

5時間前後で身は落ち着く。それ以上このままにしていると、今度は『乾き過ぎ』が始まり表面がゴワゴワになってしまうので、ラップで包んで保存する。

このやり方で保存すれば、3~5日間以内は刺身で食べられます。

節を1本づつサラシ(又はペーパータオル)で包み、ラップしておくと良いですね。
これは河豚の節です。

これもやはりサラシが濡れてきたら乾いたものに取り替えないと、水分を吸い戻してしまいます。つまりサラシでドリップを抜いた意味が無くなるのです。注意して下さい。

下の画像は「関さば」と「のどぐろ」です。

こうした希少な高級魚を刺身用に保存する場合、銀皮を保つ為に薄皮を剥いておき、身の部分に吸水紙を当ててラップしておきますと、たんに卸身をラップしておくより遥かに身質を保てます。

 

この辺の微妙さは、実際にこうした魚を扱っている料理人にはよく理解できるでしょう。



一般的な魚の保存

上の状態の魚は、釣り師とか市場に関係の近い人達のみが手にすることが多く、普通の方は新鮮といっても死んでいる魚しか手に入らぬものです。ノジ状態(自然に死んだ魚)です。

そのような魚の場合、腹を裂いて血合いをきれいに落とし、腹にペーパーを詰めてから外部も紙や布巾で包みます。


※画像は拭き取っている場面でイメージです。実際に詰める紙等は細長く魚の腹の形に合わせる。

その上からラップでグルグル巻いておきます。
※上に書いた活けの魚でも刺身以外の用途に使う魚ならこうします。
※ドリップが出るので紙はマメに取り替えます。

この後、細かなフレーク状にした氷で覆い尽くしてから冷蔵庫へしまう方法もあります。しかしこれは氷が解けてしまえば逆にマイナスですので、あまりやりません。(やる場合は容器の底に穴を開けて水が溜まらぬ様にすること)

これも手順がよければ5日くらいはなんなく持ちます。

塩水処理

一部の魚は、腹とエラを抜いて洗った状態で、氷塩水に放って保存する「塩水処理」という方法もあります。
※釣った魚をクーラーの氷塩水に放り込むのとは意味が異なります。

こうすると見た目の鮮度を保てる為に、関係者がよく使う方法であり、一部にはこの時ある種の「色止め&発色剤」を入れる業者もおります。(この場合ワタも抜いてない丸状態。早い話が仕入れ段階でプロがプロを欺こうとするケース)

しかしまぁ、これはご家庭では冷蔵庫サイズの問題で出来るものではありませんし、身が締まりすぎて塩辛くなりもしますので、「知識」のみにしておけばよいでしょう。

薬品等を使用しないで鮮度を保つ塩水処理

生物にとって困った存在である「酸素」 太陽光線と同じく、”必要だが有害”ということです。生命活動に不可欠ではあるけども、同時に致命的。どう有害かというと、「癌」などがその代表です。腐敗、つまり鮮度低下のプロセスでも「酸化」が大きい。

この酸素を、窒素の泡で追い出し鮮度を保つ。そういう着想をしたのが水産業の最上賢一氏。水中で極めて小さな窒素の泡(リットル中に7億)を発生させることにより、酸素濃度をゼロに近くする。酸素による劣化を防げますから、これによって驚異的な魚の鮮度保持が可能になるという仕組みです。逆に酸素の泡を発生させると養殖魚の早期育成が可能になるなど、応用範囲は広く、非常に先が楽しみな技術ですね。

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冷凍保存

冷凍保存する場合、出来る限り「姿」の状態から遠くしましょう。「スキン」が理想です。三枚、あるいは五枚にして骨もなく、皮もない、身だけの状態がベストです。

活けの期間(最初書いた新鮮な状態)は絶対に冷凍しない方が利口です。新しければ良いというものではありません。

最高の状態で冷凍するには、死後硬直が始まり、薄く塩をしてザルに並べ布巾を被せてしばらく冷蔵庫で脂と肉汁を飛ばしたタイミングです。

つまり余分な水分が抜けた状態ですね。出来れば料理用途に合わせてカットしておきます。
それを一切れずつラップします。
(この時切り身を重ねて入れたりすれば、全てが無意味になります(くっ付いてしまうので)
それからフリージング専用の袋に入れて穴のあるアルミバットに整頓して冷凍庫に入れれば完璧です。家庭用冷蔵庫でも2週間前後品質を保てるでしょう。

最大氷結晶生成帯
これはマイナス1℃からマイナス5℃の温度帯の事です。魚の水分の80%はこの帯域で凍りつきます。この時に氷で細胞が壊れ、解凍時のドリップにつながり味を損なうのです。したがってこの温度帯をできるだけ素早く通過させるのが理想。急速冷凍技術はこれが目的です。
この急速冷凍は家庭の冷蔵庫にも普及してますが、無い場合は冷凍する魚を「できるだけ薄く」してこの温度帯を通過させるしかありません。また急速冷凍庫でもやはり薄くするのがよい方法です。

脱水シートの利用

魚は肉より水分が多い
その水分が凍るときに細胞が破壊される
それがドリップになり味も悪くなる

この事から分かるのは「余分な水分を抜けばよい」という事実。

浸透圧を利用して水分を抜ける「脱水シート」はこれで包んで2時間も冷蔵庫へ入れておけば干物になってしまうほどの優れもの。上手に使えば冷凍の際にも有効です。

ただ魚の旨味はこの水分にも含まれており、カラカラに水を抜けばよいというものではありません。なので脱水シートは使い方に注意が必要です。色々な種類がありますので、製品をよく確かめてから使うようにしましょう。

一夜干・燻製作り・冷、解凍にも便利な
脱水シート(ピチットシート)

※生・冷凍に関わらず、保存期間はあらゆる要素で変化しますので気を付けて下さい。
冷凍保存のコツ

真空保存

現時点で最も優れた保存方法は真空保存だと思います。
脱水シートで余計な水分を抜き、真空パックする。これが最も効果があるでしょう。魚介の保存だけでなく、料理そのものも保存可能です。水分主体の物は煮沸後にパックします。シーンによってはとても使い勝手が良いでしょう。
真空パック

なぜ真空が良いのか 《脂肪の酸化》
良質な必須脂肪酸である魚の不飽和脂肪酸も酸素によって変質してしまいます。フリーラジカルの連鎖反応で多価不飽和脂肪酸も脂肪酸ラジカルに変化してしまうのです。その脂肪酸ラジカルが「過酸化脂質」になります。酸化脂質の増加は、すなわち「鮮度の低下」に他なりません。

これがさらに分解したり、他の分子と結んだりして「酸敗」になる。こうなった食品は二次酸化物を生成し毒性を持ちます。このような食品は悪臭を発し、もう食べられません。こうした現象を現場では「あぶら焼け」と呼んでいます。

脂が旨みであると同時に鮮度の低下を招くとは、そういう意味です。したがって開いた魚を水洗するという手もあるのです。これは一般的に「旨みが流れ去る」として嫌われますが、過剰な表面脂を流し去るのは「長持ちさせる方法」でもあるのです。
酸化は冷凍状態でも進行します。干物を冷凍しても黄色くなっていく。あの黄色は酸化の一種。「冷凍焼け」は冷風と脂によって起きるのです。

極力酸化を避けるには、酸素との接触を断つこと。密封後、特殊なガスを充満させたり、脱酸素剤などを用いる手です。
さらに理想的なのは「真空状態」
究極は、実現可能かどうかは別にして、-273.15℃、つまり絶対零度。
食品保存関連サイト
どうしてクリスマスケーキやおせち料理は何ヶ月も前から冷凍しておけるのか?
プロトン凍結の原理 - www.proton-group.net/

高圧をかけて殺菌する新技術
まるごとエキス - www.toyokoatsu.co.jp/




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