魚の皮を上手に引く(1)【銀をつける】

  

魚の皮を上手に引くとは

きれいに皮を引いた魚の身

魚の皮引きはそう難しいものではなく、少し練習すれば誰でも出来るようになります。

しかし、「魚の皮を上手に引く」のはそう簡単ではありません。

あるていど経験を積めば、皮を切ったり、皮に身が残ったり、身を切ったり、そういう失敗をしなくなります。これもまあ「皮引きが上手くなった」と言えるでしょう。でも先があるのです。

「引いた魚の節皮目に凹凸がなく血合いや模様が滑らかに見える」
これは引いた皮に殆ど身が付着していないという意味。「包丁をよく研いでいる」「包丁がぶれてない」というわけで、かなり皮引きが上達したという事なります。

長年やっている本職でも、この段階の人は大勢います。

が、まだ先があります。

縞模様の一枚上、光った部分を出してやる、という引き方で、この箇所を「銀」といいます。



魚の銀皮とは

「銀」とは、例えばサンマの薄皮を剥いた状態の、あの青の絡む輝く銀白色のことを指しています。


銀と青が美しいです。

こうやってキレイに『銀皮』を残します。

これはアジ

ですので、言葉の意味においてはアジやサバやブリ系の「青魚」の背の色が正しいのですが、「銀皮」と言う場合は白身の魚も含めています。『薄皮の下の模様を完全に残して皮を引く』 そういう意味になります。

白身魚の銀皮。

スズキやタイなどの魚には銀がありませんので(正確にはキワに少しあります。下画像)縞模様を完全に残して引きます。

天然鯛

養殖鯛

※白く見えるのは「筋」ではなく「銀」(これを筋だと思っている人が多い(ページ下で解説)

スズキ

イサキ。腹の白い部分が銀皮です。

ヒラメ

イシダイ

イシダイ系もやはり銀は白く、この種の魚はタイみたいに縞を出すよりも、白くなっているのが銀皮を付ける引き方という事になります。

なんでそうするかと言えば、「美しい」からです。

銀を残して引く意味

イマイチなキンメの皮目

銀を完全に残して引いたキンメ

ダメダメなサヨリの銀皮(画像上)

銀皮がきれいなサヨリ

残念なアジとサバ

ばっちり光ってしまったアジ

どちらの刺身を食いたいですか?

ザザーっと引いて、血合い皮がむき出しになろうと、血合いと皮がマダラになろうと、身を多少削ってしまっても、皮が引ければそれでいい。しかし、和食の板前というからには「それでいい」は通じません。デコボコの皮目を客に向けて向付に刺身を盛るなどありえない。

もうひとつ、魚は種類豊富、で、おろし身になってしまうと何の魚だか分かんねぇって事もあります。刺身の氏素性を少しでも客に伝える。

さらにもうひとつ、旨味と栄養が一番あるのが、皮と身の「キワ」であるという意味もあるんです。魚に脂がのる旬の時期になると、この銀(皮目)に脂が回り美しくなります。

おまけにもうひとつ、身の劣化(血合い焼け)などを避けられて身の鮮度が保てる利点も。

これは銀を付けて皮を引いて翌日のサク。

銀がなければ血合いの色は飛んでしまいます。

乾燥を避けるため、保存には注意
魚の保存の仕方 →

銀を付けて皮を引くには

皮引きには、外引きと内引きがあります。

外引き

内引き

銀をつけて引くには「外引き」が適していますが絶対ではありません。内引きでも銀は出せますよ。使い分けるようにしてください。

具体的には個別に説明しますので次のページをご覧ください。

銀皮造り

ここで説明している「銀皮をつける」というのは、皮引きにおける言葉です。お造りの【銀皮作り】とは意味が異なりますので注意してください。

銀皮造りとは

一般的に【銀皮作り】と言うのは、カツオとか太刀魚などの皮を付けたまま刺身に引く手法であり、この場合の銀皮は一番外の皮を意味し、ようするに皮を引くことなく完全に残したまま刺身にしてしまう切り方です。

これは鱗のない魚(カツオ、タチウオなど)、もしくは鱗皮の引けない魚(コハダなど)でしか出来ない刺身です。


タチウオの銀皮造り


カツオの銀皮造り

言葉の意味においては、アジ、サバ、イワシ、サンマ、サヨリなどの薄皮を剥いて皮目を見せる刺身も銀皮造りになると言えましょう。字義通りですから間違いではありません。

魚の皮は4層になっている

「魚の皮は一枚だけで外皮を引けば良い」そう思っていると、この銀皮引きは失敗します。

鱗を除去したあと、※手で剥ける薄皮がありまして、この皮が1番外の皮になります。これは銀は出るのですが筋を残してしまいます。

この筋を外して引くのが2層目の薄皮で、これは庖丁で引かなきゃいけません。

つまり3層目が「銀皮」になるのです。

4層目が血合い皮(もしくは身皮)で、ほぼ肉と同化しており、一般の料理ではこの皮を引くことはありません。特殊な魚種のみ、それを刺身に切る時だけ引く必要が出てくるくらいです。

カツオやサーモンでさえ銀をつけて引くことが可能で、さらに冷凍の節ですと「手で剥いても銀が出る」やり方もあります。

しかし、手剥きで銀を出すと、必ず分厚い薄皮(筋入りの)が残ってしまい、非常に口当たりが悪くなってしまいます。生のカンパチやハマチなどもそうなります。

ようするに1層までしか剥いていないからですね。包丁を使わないとその下の薄皮が剥けません。

この事を理解しておらず、「外の皮目やギンギンが付いているとゴワゴワして刺身にならん」と勘違いしている料理人が非常に沢山おります。もしこういう方が先輩にいますと、銀をつけたら逆に怒られるかもしれません。困った話です。いや、だからこそこんな記事を書いてもいるのですが。

「お魚の皮を銀を付けて引くとエグゼクティブシェフが発狂しました
これは皮だって、食べれない!!・・と」
包丁ギャラリー#53 コメント欄より→

魚をさばく場合には「魚の皮は4層」と考えて臨みます。いや、別に普通に皮を引く場合は2層構造だと考えてかまいません。「板前の仕事」を身につける必要の無い方はそれで結構だと思います。

銀皮を付けて包丁で魚の皮を引く方法は本職の板前でも上手に出来ない方が大勢おりますし、上手い板前でも集中力を切らせば失敗する、そういった種類の庖丁技です。難易度の高い「フグの皮引き」に匹敵するか、それ以上の集中力が必要になります。

河豚の薄皮を「とうとう身」と言いますが、そこから一般の魚の皮と身の際を「とうとう目」と言う呼び方をする場合があります。これがいわゆる「皮目/銀皮」です。

フグの皮引き→

この銀皮引きは感覚的な作業が多い板前仕事の中でも特に感覚的でして、言葉及び文章で表現するのは非常に難しいです。ですがせっかく板前になった方々に、これをモノにして美しいお造りを出せるようになって欲しいと思う一念で、なんとか文章にしました。

著者:手前板前 魚山人