包丁に鋭い刃をつける研ぎ方

  

包丁に本刃をつける

包丁の手入れをしてみましょう。きちんと研ぎこんで本刃をつけるのです。

しばらくの間、使うばかりでまともに手入れしていない刺身包丁でやってみます。

ずいぶんとくたびれていますね。



研ぎの手順

(1)まず最初に裏刃をつけます(裏押)

目的は下の図の「紫色の線」
上下の裏押しを水平にし、包丁の裏を決めるためです。

800~1000の中砥を使います。
※長く手入れしてない包丁や本刃付きでない新品の包丁だけです。通常の場合、裏押しは中砥ではなく仕上げを使います。裏スキが無くなってしまいますので。
裏すきと切っ先

横にして砥石に裏を密着させ、「押し研ぎ」

  

上下の裏押しが同じ幅(1~2ミリ)になるようにします。
(光っている部分が裏押し)

(2)裏押しが終わったら「中研ぎ」

まず、しのぎ筋を決めます。
かちんと鎬に当てて直線に角を出す。

次に水平にする感じで切刃全体を研ぐ。ベタにするのです。

その次は角度を深くして刃境から刃先を研ぐ。
刃線(刃道)にカエリが出るまで研ぎ込みます。

シノギの角→切刃全面→刃先
この3工程によって蛤刃になります。

(3)石を変えてバリをとる

砥石を4000~6000の仕上げに変えてカエリを落とす。
(先ほど書いたように裏はカエリ取りでも出来るだけ仕上げを使う)

(4)仕上げ研ぎ

仕上げでは刃境から先の鋼を主に研ぐようにする。

最後に包丁を立て、糸切りを入れて小刃合わせ。

裏のバリを取れば完成。

切れの確認

刃が付いたか確かめましょう。

テッシュを3~4枚丸めます。

それで刃をなぞる。

※下段の[包丁の刃]もお読みください

スムーズかつ鋭利に切れないようなら中砥からやり直しです。
刃が付いていません。

切れても下のように刃に紙玉がつくようでしたらカエリが残っています。

新聞紙でこすってカエリを落としましょう。

本刃がつきました。

※カエリが出ないような研ぎ方では本刃はつきません。目で確認も出来ますが、指の腹で確かめながら中研ぎしましょう。

・カエリが出ないのは角度が浅く刃道が砥石に接してないかローリングです。

・裏押しと同じく、本刃も決まったらしばらくのあいだ仕上げだけで刃がつき、中砥は不要です。



研ぎの意味 包丁刃の構造と切れ味

刃物(包丁)の切れ味は大雑把に言うと二種類あります。「荒い切れ味」と「なめらかな切れ味」です。

包丁の刃先は顕微鏡で見ると「ノコギリの刃」と同じようになっています。ギザキザの波のようになっているのです。

大工さんなんかが鋸を手入れする時に「目立てをする」と言っていますね。あれは個々の波を研いでいるのです。

包丁の刃をつけるというのは実は「波の調整」みたいなもので、目立てとほぼ同じことをしているんです。

もちろん肉眼で波が見えるわけではありませんが、イメージとしてはノコギリと同じようなものなんです。

一つ一つを目立てすることは出来ませんが、波の荒さや間隔は調整できます。この調整が「研ぎ」なんですね。

木こりが大きな木を切り倒すノコギリと、大工さんが細かい作業に使うノコギリの刃を思い浮かべてください。波の間隔がまったく違いますね。

刃の間隔が何故あんなに違うのでしょう。

単純に言いますと、切る対象の大きさに比例しているのです。大きな物には大きな波、小さな物には小さな波。

包丁の「切れ」は、この波の性質に左右されます。

荒い砥石でざっと研ぎますと、波と波の間隔が広くなり(実際には綺麗な波ではなく、険峻な山脈の峰のようにランダムでギザギザ。尖った波や小さい波がボコボコ状態)ます。

この「鮫の歯状態」が荒研ぎです。刃先が「ササクレ」た状態になっています。

牛刀などをスチール棒で研ぐと同じようになります。また、「押すだけ式」の簡易研ぎ器でも同じです。

このササクレ状態で「試し切り」をしてみますと、感覚として非常によく切れます。とても切れるんですね。

これは個々の波の「峰が険しい」からです。同時に「谷が深く谷幅がランダムだから」です。

この「波の荒い刃」は、脂の多い獣肉などを切る用途に適しています。

しかし、悲しいかな切れ味は持続しません。

ミクロの世界でスローにしてみますと、これは切るというより、個々の波が物体に「刺さっている」イメージです。

波先が鋭いほどよく刺さる。これが「よく切れる感じ」の正体です。

刺さったままじゃ切断できませんので引くか押すかします。すると刺さっていた波(個々の刃)がたちまち崩れます。

荒い刃が「切れ止む」のが早いのはこのため。

また、波の荒い刃は「脂よりも水分が多い材料」には適していません。つまりマグロや白身魚を刺身に引く日本料理の刺身包丁には適さないのです。

荒砥で研いだだけの柳刃で鮪を引くのは、大鋸で竹串を引くようなものです。

3000以上の砥石を使う「仕上げ研ぎ」は、ギザギザ(波)の間隔と高さを整えているのだとお考えください。

ここが精緻に整えば整うほど、切れに「滑らかさ」が増していくのです。

整うことで波の高さか均一になり、「くい」が平均的になる事で負荷が分散され(これが「切れる」ということで、「刺さる」との違い)

崩れにくいので「波の寿命」が長くなる。それで「長切れ」するわけです。

砥石の粒度を細かくしていく、超仕上げ研ぎをするというのは「顕微鏡の倍率を上げて拡大しなければギザギザが見えないようになる」ということで、波の山と谷がより精緻になっていく事。すると切れ方も「精緻」な感じになるのです。

ギザギザ(波)をなくしてしまうには、包丁を九十度にして刃先を荒砥や面直しに当てて擦ればいいだけで、こうするとツルツルの刃になり「刃びきの刀」のようになります。要するにまったく切れません。

つまりギザギザ(波)が無い刃物では、モノを切ることが出来ないということです。

ただ、普通の角度で通常に研いでいれば、いくら研いでもギザギザが消える心配はありません。たんに鋼が少なくなって行くだけのことです。

大事なのは「何をどんなふうに切りたいのか」であり、研げば研ぐほど良いということではありません。

「ノコの刃のようなギザギザの波」を、どう調整してどう維持するのか。

鮫の歯状態から精緻なミクロン波に至るどこの地点まで波を調整するか。それだけのことなんです。

自分の目的に合わせてそこを調整して行く。そんなふうなイメージが持てるような研ぎ方ができれば良いですね。

著者:手前板前 魚山人