食材の目利き  

魚を見分ける目

あまり怒りや舌鋒を鋭くしますと、内容がファンタジックになりやすく秤の分銅が一方に傾きましてね、整合性が薄いものになり、結果として自分が批判してるつもりの事象と「同じ穴の・・」になるものですな。えてして。

そんな内容をロジックへと誘ってくれるのが、つまり分銅の位置を秤が傾かない場所に戻して下さるのが読者からのコメントになりましょう。バランスを計ってくれるコメントを投稿してくれる読者を持てたのはブログ書きとして幸せの一語。深く感謝をしたい心持。

問題を際立たせたいが為に「『中国の食材』が・・・」のなかでは意図的に触れておりませんが、『食の問題』の解決へ向けて全国であらゆる取り組みがされておりまして、なかには明日に希望の持てるような成果をあげているところも少なくありません。そうした動向は料理人として常にチェックしておりましす、すでにありがたく利用させてもらっているところも沢山御座います。



食材を見分ける方法

料理に手を染めたらいずれこの問題に帰結します。
早い話「良い食材とはどんなもので、どうやって見分けるのか」です。

ず~っと前はわりと簡単なもんだったんですよ。良い物がどれかって言うよりもね、「悪い物を選ばなきゃいい」ってだけのモンでした。それを一年も繰り返してますと、そのうちに「良い物の中からさらに良い物が自然に判別できる様になる」って具合です。

オーバーに言えば腐りかけた物と新鮮な物の二者択一ですよ。だから昔の小僧はまわり道する必要があまりなかった。

ところがご存知の様に今はやっかいな世の中になってしまいました。
どんなモンでも新鮮に見せる方法が確立しているからです。その方法ってのがプロだからそれを見抜けるって一昔前の段階を超えたレベルに到達してますからもうどうしようもない。

実験室でしか判別できぬ品物の是非を問うのはもはや無意味でしかなく、そんなイタチごっこに延々と付き合っているほど料理人はヒマではありませんからね。「腐らない生鮮品」が跋扈する時代に食材個々を見て判断するにゃ無理があります。

それを打破するにはその食材の氏素性を明確にする以外にありません。
そんな思惑を見越して産地を偽装したり流通ルートなどを曖昧にする「抵抗」も盛んになって来た側面もあるんですけども、「知ろうとする意思が強い者」に対しては嘘を通せるものじゃありません。

何処のどんな生産者がいつどのルートで届けてくれた食材か。それを把握できる方法を確立すればよいのです。面倒くさい話ですけども、現実がそうならそれに即した対応をとるしかないですからね。

昨今話題になることが多い食材の【厚化粧】の問題。実は大昔から連綿と日常的に行われて来ています。見るからにピカピカツヤツヤの物が増えて来ましたが最近とみに化粧が上手になってきた日本女性と連動でもしているでしょうかなぁ(これはまた余計な事を言いました(~_~;)あいすんません)。

表面は薄汚れて見えるのが実は本物で最高級だったりします。

なんで化粧を持ち出しかと言いますとね、落とす方法も似ているからですよ厚化粧と。基本は洗い流す。その成分を分解可能なもので拭き取る。さらには熱を加え分解を促す。 これは逆に考えると添加物の有無や加工の度合いをチェックできるって事になります。

断面を自然光や蛍光灯で発色。(自称蝦夷鹿の肉)

液に浸す。(自称高級地鶏の肉)

表面を加熱してみる。(自称無添加の冷凍加工品)

ウナギなんぞは例えばこの姿の時点でおいらは中国製だと分かりますが、

加熱後はタレの粘度や切り口で一目瞭然になります。

これは中国産だからいかんと言いたいのではなく、その逆です。
はっきり言って国内で獲れた天然のウナギよりも美味い。これはもう絶対です。嘘だと思うなら九州や四国で獲れた凄い値段の天然鰻と中国の養殖鰻を蒲焼にして100人の人に食べ比べてもらえばよい。天然が美味いという方は明治か江戸時代に生まれた人だけです。つまり全部の人が養殖鰻の蒲焼を選ぶってことですよ。それが動かせん事実ですし現実です。

問題があるのは使用してはいかん薬品類を使う一部悪質な業者と『風評』です。それがあるから国内輸入販売業者も姑息な真似をせざるを得ないという馬鹿げた悪循環になっているのです。決して中国の鰻自体に問題があるのではない。

食品を加工製造してる会社がどこもかしこも悪質なのではありません。消費者の利便性を考えて日々商品開発に努力しているところも多いです。そういった真面目な会社は原材料の氏素性を隠したり欺いたりは致しません。それによって売れ行きが落ちる可能性があろうと、そんな事よりモラルを優先してはっきりと表示してくれます。

ちなみにスギとは南洋で獲れるスズキ科の魚ですが、これを何の関係も無いアジ科の「黒カンパチ」やら「トロカンパチ」などと意味の分からん名称で出しているとこもありました。シイラを「沖ブリ」と表示する感覚ですな。

根の深い問題でしてね、こうした事をすべて厳格にするなら「銀ダラの西京焼き」を「メルルーサの西京焼き」にしなけりゃいけない訳で、折り合いの難しい面もあります。

食材を見抜く眼力とは?
具体的に良し悪しを判断する方法はあるのか?

下のA群は良い魚でB群はイマイチです。



キンメの赤色は生前よりも死後に鮮やかになる。同じくカツオのストライプも時間経過で濃くなる。魚は目を見て腹を見て張りを見る。さらには尾の具合を確かめたりエラの健康さで生育した環境を知る。

野菜の場合はヘタや茎や根を見る。

このように言葉を並べるのは簡単です。
しかし、何故そうなのか。

ヘタが良いのは農薬を抑えて丁寧に作った野菜、目玉に濁りがないのは新鮮な魚で張りと艶があれば脂ものっている。しかしただそれだけで全体を判断する事はできません。

自然界に存在するものは長所と短所が混在しているのが普通で当たりまえの事です。とても一二箇所が良いからそれを「良い物」とは断定できないもんなんですよ。

では何故プロは一目でその良し悪しが判別できるのか。
これを総合的に説明する方法はありません。

なんでA群の魚が良くてB群はイマイチなのか。
そいつを言葉にするのは事実上不可能なんです。

実際の経験と実務以外で身に付くものではないからです。
表現すれば『目を肥やす』と非常に単純なもの。
しかし本当に肥えるには相応の年月が不可欠だと思います。

最近は細胞をあまり破壊することなく冷凍が可能です。
『解凍もの』なのか獲れたての生を剥いて速攻で市場に来た物か。

それは『見た瞬間』に分かりますが、なんで分かるのを説明はできないのですよ。

さらには良い魚と悪い魚の判別が出来る様になったからとてそれで終わりという事ではないのです。

典型的な赤身の魚は脂肪が勝りますので味が深く、反対に白身は淡白なのが特徴で良質のたんぱく質イコールうまみ成分が豊富。
ですからその調理方法は同じやり方ではいけません。煮方、焼き方も手順を変え、旨味や栄養を引き出す方法を使い分けます。そのうえで例えば赤ちゃんの離乳食には赤身の魚ではなく白身の魚が適しているなどの知識も後付けしていく必要がありましょう。

毎日を真剣に生き、年月を重ねる。
それ以外の答えは今のところ何も無いのです。


付記

ブログにもHPでもメールアドレスを公開しておりますので、色々なメールを頂戴いたします。温かい励ましのお便りが殆どですが時々質問等もあります。全部に返信したい気持ちはありますがそれは不可能でもありますので、だいたいは返事を出しておりません。しかし場合によっては返事を送るケースもあります。

先日食材を勉強したいという主旨のメールを頂きました。
こうしたお便りにはまぁ返事を書きません。

ところがこの方はいいかげんなところが微塵もありません。その逆です。
それで返事を書いて送りましたのですが、その文章を支障のない範囲で紹介しておきます。
※おそらくこのブログを御覧の方の参考になると思いましたので。
※御本人の許可が頂けましたので、脚色はやめてほぼ原文ママで紹介します。

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魚山人さま
はじめまして魚山人さんのブログ読者のあこです。
魚のさばき方が分からなくてインターネットで調べていたら魚山人さんのブログに出会い、それから拝読させていただいております。

本物の料理人である魚山人さんの言葉や料理の解説はいつも本質を得ていらっしゃって勉強になります。

私は大好きだった料理に携われる仕事を一生の仕事にしようと決意し、今年から料理研究家のもとでアシスタントをしております。
現在、家庭料理を主に勉強しておりますが、ジャンルもきまりもない家庭料理は作れ ば作るほど料理の本質から離れ、小手先だけのうすっぺらな調理に陥ってしまっている気がしてなりません。

最近は「まず第一段階として食材のことをもっと知りたい」と考えるようになりました。
食材の本当の味を知らなければ、それを活かす料理なんてできないと思うからです 。

そこで是非とも魚山人さんにお聞きしたいことがあるのですが、東京で個人がおいしい魚を適切な値段で手に入れようと思ったら築地などの市場に行くのがよいのでしょうか?
築地は度々足を運んでおりますが正直なところ魚や魚屋の見極めができません。
もしよろしければ東京近郊を含め魚山人さんの認める魚屋さんがあれば教えていただけませんでしょうか。

信頼のおける魚屋さんで旬のお魚を見て、手に入れて、さばいて、食べてみることで魚を見極める目を養いたいと思っております。

私の人となりが少しでもご理解いただけるよう
恥ずかしながら、以下に私のブログURLを添付させていただきます。

まだまだ未熟者ですが恥は若いうちにかいたほうがよいと思いこの度魚山人さんに初めてメール致しました。

ご返信いただけると幸いでございます。

あこ

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メールをありがとうございます。
拙い板前ブログを読んで頂き感謝致します。

貴女は今時珍しい真摯で真面目な方との印象を受けました。
文章もしっかりしてい らっしゃるし、素直な文体はお人柄を察するに充分ですよ。
ブログの方も少しだけ拝見させていただきました。
やはり爽やかで裏表のない素敵な人の様に思いました。

それをふまえてこちらも真剣にお応えします。
ご質問の魚屋については残念ですがお答えることは出来ません。
その理由は熟考なさってみてください。いずれ解りましょう。

しかしそれではあまりに不親切。
少しだけアドバイスさせて下さい。

まず築地市場で魚を見ることは時間の無駄です。
市場というのは素人さんが魚の良し悪しを観察する場所ではなく、あくまでも専門家に商品を売るのが本筋。板前ならともかく、あそこで魚の見分けを修行するのは不可能です。そもそも広大すぎて焦点が絞れなく、視点が分散してぼやけるだけです。したがってあこさんには適しません。

そして極端な言い方になりますが、都会の魚屋に旬の新鮮な魚は無いです。これはね、本物の魚をまず見なさいという意味です。食材を知るには順番に素材を見て目を慣らす必要があります。都市の人の「スーパーマーケット目」では何も見えてこないからです。最高の物、次に良い物、まあまあの物、少し落ちる物、悪い物、最悪な物。

このなかの一番上の魚は漁港の河岸に行けば見られます。
自分は記憶できない程日本中の漁港を見て回りました。
その日漁師が獲って来て市場に出し、最高のセリ値が付いて東京や大阪や京都行きのラベルが貼られた魚が極上という事になります。

最高のサバやカツオがどんな姿をしてるのか目に焼き付ければ、築地でも街の魚屋に行っても、そこにある中で一番最高の魚に引き寄せられて行くんですよ。ですから魚屋さんを選ぶ必要などないとも言えます。全商品が最高という店は生鮮店では有り得ないからですね。この店ではサバ、隣でアジ、向こうでイカ。店先を歩くだけでそこにある最高の品に呼ばれる。プロはそうやって食材を選んでいるんですよ。

お役に立てず申し訳ありませんでした。

魚山人

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魚山人さん

ご返信いただきありがとうございます。

魚屋の件ですが馬鹿な質問をしてしまいました。
楽して東京の市場や魚屋だけを見ていても何も見えてこないことがよくわかりました。
魚山人さんからアドバイスをいただき、今自分がやるべきことがクリアになりました。

築地に関して魚山人さんが『そもそも広大すぎて焦点が絞れなく、視点が分散してぼやけるだけです。』とおっしゃっておりましたが、まさにその通りなんです。
きっと観光客相手に粗悪な魚を売る人もいるだろう、でも中には良品の魚もあるだろう。。。
そんなことを思って歩きまわっていると鮮度や価格、産地を含めてどの魚が"良い魚 "なのかわからなくなってしまい、結果何も買えずに帰ってくるのです。

なぜか?その答えは簡単でした。
自分がホンモノを知らないからです。
まずは足を使ってホンモノを探究して、自分の目で見て味わってみることが大切なことだと改めて肝に銘じました。

私は現在の仕事柄休みがほとんどございませんが、なんとか機会を見つけていくつか漁港に出掛けようと思います。

魚山人さん、この度は大切なことに気付かせていただきありがとうございます。
また色々とご相談させてください。

あこ

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魚より読者の皆様へ
将来素晴らしい料理研究家になるであろうあこさんのブログです。

https://www.hitotsumugi.jp/blog

夢を目指して頑張ってるあこさん。
ブログ訪問&応援、
おいらからも宜しくお願い致します。

魚山人

2009年05月22日

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