良い塩とは


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塩と料理

サバイバルにおいて一番重要なアイテムは「水」です。
これはおそらく異論がなく、「無人島に持ち込めるとしたらこの品」の筆頭でしょうね。なぜなら水のみでもある程度なら命を維持できるからです。

しかしおいらは料理人ですので別の選択をします。
水は嵩張りますので持ち込める量にはおのずと限界がある。僅かな量を持ち込んでみても、その島に水の供給源が無ければそれで終わりです。どのみち後はありません。そしてもしそこに水があるとすれば無駄骨になります。

【塩】を持って行きます。

料理の歴史は人類が火を手にした時に始ったと考えられます。しかし厳密にはそれは料理ではありません。たんに肉などを変質させる手段を入手したまでです。そこに塩の存在が加わる事で初めて料理として第一歩がスタートします。これはどういう意味かというと、「火」と「塩」があれば料理ができるという事で、料理の根源だということになります。

NaCl 塩化ナトリウムはナトリウム源として人体に必須のもので、なければ命を維持できませんが、それとは別に「食塩」として「料理を料理として成立させる素」でもあるのです。

火を熾す方法は孤島でもいくつか存在しますけども、塩を得るには大変な手間が掛かります。だからこそ数千年も前から塩は権力と富を得ようとする者達に利用されてきました。「塩の専売制」がそれです(最近まで日本にあった専売制は目的が異なりますが)。それは人には不可欠の物だが入手が簡単ではないという特徴があればこそ。

現代は専売制も無いし手軽に買える時代ですけども、本当に「入手が簡単」なのでしょうか。
それをちょっと書いてみます。

自然塩に踊る

日本では1997年4月に塩の専売制が廃止され、2002年4月に販売自由化されました。それによって何が起きたか。「自然塩シンドローム」とでも呼ぶ他ない混沌状態です。

料理を職業とする人間も含めてどれだけの人が自然塩・自然海塩・天然塩、この三者の違いを言えるでしょうかね。 何十種類も並ぶ塩のコーナーで「これはいったい何事なのか」「どうやって選べというのか」「選びようがない」と呆然とした経験をお持ちの方は少くなく無いと思います。

勉強しようとしても無駄です。
何故ならこれらの自然ナントカという言葉には何の意味も無いからです。本当の意味で「自然」な塩など、とても食べられるシロモノではありません。そして食べても苦いだけの物などは販売されません。つまり自然塩などという言う物は存在してないのですよ、社会の中では。

ではどうして「自然・・・塩」なんて物が売られているのか。これは日本語の曖昧さゆえです。正確には「自然っぽい感じがする・・・塩」こう表記すべきところを端折っているだけの事です。

アメリカの圧力が強かった当時、国内では評論家さん達も口を揃えて「自由化」の合唱でしたけど、結果は農業や漁業の衰退、そして金融危機よる景気後退。塩もこの流れの一部だったのでしょうね。イオン交換膜製塩法による専売の塩化ナトリウム99%塩が良かったなどと言ってるわけではなく、「国民の身体と財産」への公的な規制を将来への理念もなく外圧だけでホイホイ自由化してもいいのかって話です。どっちにしても塩の自給率は20%に満たないので海外から輸入する他ありませんが。

さすがにこういう状態を放置できるわけはなく、公正取引委員会が規制を打ち出しました。そのせいか最近は製品の裏側に各ミネラルの含有量が書かれているものが増えてきました。自然塩という表現自体が出来なくなりますからね。

これが正解なのです。
塩の良し悪しはこの「ミネラルの比率」にあるのであり、「自然」かどうかなんてたいした意味はありません。と言うか「自然塩」という言葉はナンセンスです。自然の塩(海水)には塩化ナトリウム以外に60種以上の元素が含まれおり、塩化ナトリウムはおよそ80%でマグネシウムが15%ほどです。このマグネシウムは硫酸マグネシウムと塩化マグネシウムですが、これは「苦味」成分。こんなものは苦くて食用になりません。

良い塩とは何か

塩は【岩塩】と【湖塩】を除きすべて海水から作られます。
原材料がそのままの形で販売される事は殆どなく、釜で炊いてから製品にします。これが『せんごう塩』です。海水(または天日塩か岩塩)を釜で濃縮、結晶化させてニガリを抜くという製造方法で、多くの国がこの方法を採用しています。

『天日塩』は海水を塩田に引きこみ小さな池を循環させながら濃縮をくりかえし、太陽と風の力で塩を結晶化させたもので、ほぼ全部が輸入品です。そして殆どが工業用の製品になり、そのまま店頭で売られる事はありません。

製品に『再製塩』の表示がある場合、原料の天日塩を海外から輸入してそれを国内工場でせんごうした塩の事です。
「自然派」の大手メーカーはこのタイプが多いはずです。

このやり方で、たんに放置して何年もかけて太陽と風だけで乾燥させて作る塩を『完全天日海塩』と言います。これもほぼ海外。

日本でも完全天日海塩が作られていますが、雨が多い国ですので温室などを使い大変な手間をかけて作ります。また濃縮は天日を使い、結晶化は釜炊きという方法もありこれは『天日海塩』となります。他に瞬間結晶という方法なども使われます。

完全天日海塩は前者が天候次第で供給不安定、後者は手間隙ががかかり生産コストが高い。したがって値段は非常に高いです。比較的小規模で良心的な「自然派」メーカーはこの方法を使っている例が多いようです。

真面目な製塩業者が苦労をしているのは「自然に近い塩」を作るためではありません。『美味しい塩』を作るためです。

美味しい塩ほど手間がかかり、人の思惑が深くなります。つまりより人工的になるってことです。「海水そのままの味」は不味くて食えないと先ほど書きましたが、苦味を取り去り、有用で美味に感ずる成分を上手に配合させるテクニックを持つ人の手に掛かった塩が【美味い塩】なのですよ。

学校ではNaCl(塩化ナトリウム)は塩だと教えますが、料理人にとって塩は塩化ナトリウムではありません。あくまでも「塩」です。99.58%が塩化ナトリウムだという塩事業センター(旧専売)のイオン交換膜製塩法の塩は確かに食塩とは名ばかりの塩化ナトリウムでしょう。いくら衛生的だろうとただのNaCl。これでは料理と呼べる物は作れない。食用にする塩は少なくとも97%(国際基準)で、フランスの94%くらいが適当でしょうね。

結局はこの「適当(バランス)」がポイントではないでしょうか。
ミネラルの配合がピタリくれば旨い塩になる。しかしどれかが多すぎても少な過ぎてもよくない。
「減塩脅迫症候群」の今の社会はどうなんすかねバランスとして。「塩分を控えなきゃ」と過剰に塩を控え、血中のイオン濃度低下を招き、病院に運ばれてりゃ世話がない。
99%なんてナトリウムそのものの塩を摂ってりゃ体にも悪い影響が出るでしょうけどもね、何度か書いてますように塩なんぞ砂糖みたいに必要以上に食えるモンじゃありません。体が知っているんですよ適量を。

塩は人間になくてはならない空気と同じような存在です。一過性のブームになる様な物ではありません。
砂糖とはわけが違うんですよ。
ですのでおいらは「良い塩ブーム」を好ましく思っておりません。ブームは必ず終わりが来ます。それも浮かれ度合いが高いほど激しく凋落します。塩はそんなハンカクセェものとは無縁のものです。

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手前板前.魚山人:The person who wrote this page筆者:文責=手前板前.魚山人