ボラは10月に入りますと産卵期を迎え、翌1月まで続きます。
鯔
ボラの身は臭いと思われておりますが、臭いのは生息する沿岸が汚染されているからです。つまり綺麗な海に暮らすボラはそれほど臭くはなく、むしろ上等の白身の身質をしており、食べてもかなり美味い魚と言えましょう。
しかしやはり悪いイメージの浸透は深く、最近は食用として大きな市場に出回る事が少なくなってしまいました。良い値がつかんからでしょう。見かける事は殆どないですねぇ。昔は河岸に沢山あったもんですが。今では料理人よりも釣り人のほうが馴染の深い魚のひとつでしょうね。市場価値はゼロに近いでしょうな。
それでも旬の冬になると「寒ボラ」が多少は出ますね。大型で歩留まりもよいし、なにより寒ボラは臭くなく、身もよいからです。
瀬戸内海産 寒ボラ
ボラが臭くなるのは都市部の沿岸で暮らし、雑食で、しかも餌を泥ごと食べるからです。つまり汚い海底を漁っているからですな。その為腹の膜が真っ黒になります。ボラを捌く時はこの黒い腹の膜をキレイに取り去る事です。
サヨリと同じですわなこの黒い膜は。悪食が似ていて、臭い膜がある。悪食と言えば穴子やクロダイもそうですな。やはり身にクセがあります。穴子の場合はヌメリに臭いがあり、身は臭くないんですが。
→サヨリ
その食性からボラは硬くて奇妙な形の胃袋(歯が退化してるのでここで食物を砕くのでしょう)を持っていて、ここが珍味。まるでソロバン珠のような形の胃は「ヘソ」とも呼ばれ、つけ焼きや塩焼きにしますとコリコリして確かに珍味。旨いもんです。
ボラは10月頃から産卵が始るので、浅場から外海の深場に移動します。だから臭みが取れるし、産卵の為に脂も回り美味しくなるのです。つまり寒ボラという訳です。春になるとまた内湾に群で戻ってきます。
昔古老から聞いた話では、江戸前の海にも信じ難い巨大な鯔の大群が押し寄せたものだとか。そりゃもう見事なほどの大群だったそうですよ。
若い時に南の島で「クブシミ」(こぶしめ.南洋の巨大コウイカ)を釣りに行った事がありますが、その時に生餌として「チ(ツ)クラ」(南西諸島でボラを指す言葉)を使うため、早朝から海に近い川に網を張って沢山の小ボラを捕まえました。
岸辺で生きたツクラを使ってコブシメを釣る傍ら、巨大な打ち込み竿に生きたチクラをかけて100メートルほど沖合いに遠投しておきます。珊瑚礁にて必ず根掛かりしますので仕掛けはアンカーです。この打ち込み仕掛けはタマン(フエフキ鯛)やガーラ(平アジ・カッポレ等アジ類)などを狙うためです。
70センチオーバのタマンなどは掛かると一直線に沖走り、あまりの力に尻っテのクーラボックスまで引っ張って行く。なのでボルトで固定しなきゃいけません。懐かしいですねぇ。
とにかくボラは昔庶民に非常に親しまれた魚で、刺身や洗いを始め、汁物、揚げ物、焼物、煮物、蒸し物、なんでもござれの大衆魚だったのです。身質は飛魚とスズキの中間みたいな感じで、臭みさえなければ非常に旨いですよ。刺身にするときのコツはガンバラを大きくへぐ事です。おろした上身を塩水で洗い氷水で軽く〆るとよいでしょう。水分はキッチリ拭き取ること。
ボラは出世魚ですから成長で名前が変わります。
稚魚→「はく」
10センチ以下→「おぼこ」
10センチ前後→「すばしり」
25センチ前後→「いな」
30~50センチ→「ぼら」
50センチ以上→「とど」
この呼び方は関東圏のもので、地方によってボラの呼び方は違います。いかに親しみ深い魚だったかは色々な言葉の語源になってる事からも分かりますよ。
「おぼこ」はおぼこい様子ですな。初々しいという意味を表す言葉。
「いな」はイナセの語源です。
「とど」はもちろん「トドのつまり」の語源。これ以上ないって意味になる。