中南米(たぶんメキシコやアンデスあたり)原産のトウガラシという植物があり、コロンブスがこれをヨーロッパ経由で世界に広めました。
このトウガラシはカプサイシンを含んでおり、とても辛い。
なので、その用途は「香辛料」
しかし、トウガラシにはカプサイシンが無いか含有量の少ない「甘味種」もありました。この甘味種の1群が、香辛料ではなく野菜として食べる【ピーマン】です。
ピーマンの色は緑色です。
これは成熟する前に収穫する緑果だからであり、同じように未熟収穫する【ししとう】や【青とう】よりも、太くて短い長円筒・長ベル形のものを市場では「ピーマン」と呼んでいます。
ところがトウガラシの仲間は同じアンデス地域が原産であるトマトと同様に、成熟すると葉緑素の緑色が消えていき、カロチノイド系の色素が発現してきます。赤とか黄色とかの色が出てくるわけです。
品種と発色度合いにより、実に様々な色が出て、濃緑、橙色(オレンジ)、赤、茶色、紫など非常にカラフル。これらを称して一般に【カラーピーマン】と呼んでまして、ベル形で肉厚の大果がオランダから輸入されるようになって以降、日本ではカラーピーマンを【パプリカ】と言っています。
「カラーピーマン」「ジャンボピーマン」「オランダパプリカ」などの別名もありますが、要するにパプリカであり、発色したピーマンであり、トウガラシです(オランダパプリカという別名は、パプリカの主産地がハンガリーであるにも関わらず、諸事情により日本への輸出はほとんどオランダからだったからでしょう)
※正確に言えば、ピーマンとして栽培する品種とパプリカは別種。
ピーマンにする品種を熟させて赤や黄色にしたものは「赤ピーマン」「黄ピーマン」と呼び、大果種であるパプリカとの違いは長ベル形の形と、肉の厚さで分かります。「緑色のパプリカ」もこれによってパプリカだと分かるのです。しかしどちらにしてもトウガラシの甘味種であることに違いはない。
まれに白色(淡い緑色)や、アントシアニン系色素(ナスの色)が出る茶系が進行した「黒いピーマン」もあったりします。
黒ピーマン(加熱すると普通の緑色になってしまいます)
トウガラシが日本に伝わったのは16世紀。ポルトガル人が持ち込んだ辛味種でして、これを「南蛮」と言うようになりました。今でも和食には南蛮と呼ばれる料理がいくつか存在し、唐辛子の別名でもあります。今でこそ唐辛子の一大産地といわれる朝鮮半島には、秀吉の軍が持ち込んだとの説があり、その当時の向こうの文献に「日本から伝わった《倭芥子》である」と書かれておるそうです。ま、近頃の世相でこんなコトを言えば、アチラさん目尻を釣り上げて激怒するかも知れませんがね。歴史のある日本刀も、剣道でさえ向こうが発祥だそうですし、ナントモおっとろしいこってす。お隣さんだし、仲良くできないもんですかねぇ、ヤレヤレ。
甘味種であるピーマンが伝わったのは、江戸も終わり明治に入ってから。アメリカから導入されたようです。パプリカは近年になって主にオランダから。
上記のように、日本では比較的名称に混乱はないといえる方なんですが、外国に行くとこれが非常にややこしい(我々日本人から見たらです)
そもそもコロンブスがヨーロッパに持って帰った時点から、錯誤が始まっているので、どうにもならない。コロンブス達の真の目的は「胡椒」なのであり、黄金はサブでしょう。当時のヨーロッパ人が何よりも欲しかったものは「肉料理」に欠かせないスパイス。とりわけコショウはどうしても安く大量に欲しい。
唐辛子という香辛料を見つけた時、これを「胡椒の一種」だと思い込んだか、あるいは「胡椒として売ろう」という商売心があったか。ともかく、ヨーロッパ人はこれを「pepper」と呼ぶようになる。ま、アメリカ原住民を「インド人(インディオス)」と呼んだ連中らしい出来事と言えましょう。
※胡椒(ペッパー)はインド南西部原産の植物であり、トウガラシとは無関係
それやこれやで、トウガラシが「レッド・ペパー」、ピーマンが「グリーン・ペパー」ということにあい成ります。もちろん"capsicum"という名前もありますけどね。
※スパイスに限ればレッド・ペパーは唐辛子、グリーン・ペパーは胡椒
ヨーロッパ各国ではそれぞれの母語に合わせて名称が微妙に変化していき、イタリア=「ペペロニ」、スペイン=「ピメント」など。分かりやすいのはピーマンとパプリカを特に区別してないフランスのポワヴロン(poivron)でしょうね。「ピーマン(piment)」もフランス語ですし、フランスでは香辛料と野菜の区別をはっきりさせていたのかも。メキシコでは「チリ」ですが、中央アメリカ以外で「チリ」と呼ぶのは激辛品種を指しています。
こうしたトウガラシの呼称にハンガリー語の「パプリカ/Paprika」(オランダ語ではピーマンのこと)というのがあり、我が国では現在カラーピーマンの種類をパプリカと呼んで、それが定着しています。
ハンガリーにトマトのような扁円形の赤い品種がいくつかあり、「トマピー」などという名前で売られていますけども、この仲間の肉が厚い品種を乾燥・粉末加工したものが、【スパイスのパプリカ】です。 辛味種唐辛子粉末に似たものでありながら、あのような刺激はほとんどなく、比較的穏やかな香辛料で、スパイスとしてよりも「赤い彩り」として重宝します。色付けとしても、「クチナシ」で黄色を強調するように、鮮やかな赤系色素となるわけです(ただし注意しないと黒くなる欠点がある)
「ピメント・オリーブ」「ペペロンチーニ・ソース」などもカラーピーマンを加工したものです。