ダイコンという食材  

大根の過去から現在

大根ほど和食料理に馴染み深い野菜はないんじゃないでしょうか。 板前人生を振り返ってみても、庖丁を入れた野菜は多分ダイコンが筆頭かと思います。あまりにもポピュラーでありすぎる為に、ダイコンだけで記事を書くのは雲をつかむような感じでもありますけど、できるだけ簡素に大根って食材をまとめてみましょう。



大根の品種と歴史

大根(英:daikon radish)はアブラナ科の野菜で、自生の起源は考古学の一分野になりましょうから、栽培種に限定します。 栽培種が成立したのは地中海東部で文明史初期。中央アジアから西にヨーロッパ群、東に発達したアジア群に分かれ、板葉で無毛が特徴のアジア群はさらに華北群と華南群に分かれます。

日本への渡来は弥生時代前後から繰り返し何度もあったと推定されます。温暖湿潤地型の華南群に近い種で、古代から栽培されていたようです。日本書紀には「おほね」の名で登場しています。
以後重要野菜として交雑や改良が進み、地方品種が多数生まれました。江戸時代後半には基本的な品種が出揃った様ですね。江戸の優良品種、練馬・板橋・浦和・三浦などが各藩に持ち込まれ、さらに地方品種が発達しました。

主要品種が絞り込まれたのは戦後からで、練馬、早生、宮重、の三種に収斂してきまして、その後1970年後半に白首から青首が主流になり、それ以降は青首大根が流通ダイコンのほとんどを占めています。

現在、世界のダイコン栽培は日本、ヨーロッパ、中国の三系統に大別され、その中でも日本の種は100を超えて多様さや品質で群を抜いています。消費量世界一でもあるし、日本の代表野菜と言っても過言ではないでしょう。

青首大根

柔らかく、甘みが強く、大きさも手頃で、煮ても崩れず、しかもオロシにしても辛みが強くはなく適度。こうした万能性が受け、今現在全国を席巻しているダイコンです。
上に伸びる性質があり、地表に出た部分が緑色になる青首は収穫作業が楽であるのも大きな理由になります。

宮重〔みやしげ〕

青首大根の代名詞とも言える品種です。
みなさんが店頭で見るダイコンはこれの「耐病総太り」タイプです。華北の青首と白首の方領が交雑して成立したものと考えられます。

二年子〔にねんご〕

細く、硬く、水分が少ない。関東の自生植物に由来。
露地で秋播き、春・初夏採りが可能な唯一の品種。

白上がり〔しろあがり〕

耐病性は弱いが品質は優れた小型大根。
京都を中心に関西で分布。
浅漬けに非常に適している。

桜島 〔さくらじま〕

最大で40キロにもなる世界最大の扁球形の晩生ダイコン。
大きさのわりにきめのある肉質で煮物や漬物にもよい。

聖護院〔しょうごいん〕

宮重の派生と思われる丸ダイコン。京都で発達した。
肉質は緻密で煮物によい。

その他、長良川流域に産する世界最長の守口〔もりぐち)。信州の「ねずみ」が著名な蕎麦の薬味にあるいはオシボリ(つけ汁)に適した〔辛みダイコン〕など


白首大根

みの早生〔-わせ〕

汁気が多く生食に適した大根。
もとは秋の早採りだったが、春播き・夏播きになっている。
練馬の早生系に二年子が交雑して成立したと推定される。

方領〔ほうりょう〕

尾張の優良品種として全国に広まったもの。
肉は柔らかく、汁気も多い。煮物やふろふき大根によい。
日本の大根品種はほとんど方領と関係を持っている。

練馬〔ねりま〕

晩生で長大、たくあん用の「練馬尻細」
太円筒形の「大蔵」と「秋つまり」
晩生で中太、煮食用の「三浦」
中生の棍棒形、たくあん用の「理想」
耐病性を高めた「新八州」
方領が関東の地で発達したものです。
現在は青首に押され、たくあん用に理想や新八州が需要をなんとか保っています。

四十日〔しじゅうにち〕

早生小型種で葉が柔らかい。
子葉が大きく胚軸が長いので「貝割れ大根」にします。
(パック詰めで水耕のカイワレが主流の現在は緑色が出る青首を使用しています)また「葉ダイコン」や「うろ抜きダイコン」にも四十日を使います。もともとは華南群の極早生種が土着したものと思われます。

亀戸大根

日本のダイコンは大体以上の様になります。 カブはアブラナ科で非常に類似性がありますが、甜菜類のサトウダイコンは科が違いますので明らかに別種になります。

また〔廿日ダイコン〕ハツカダイコン(ラディシュ)はヨーロッパ群の早生種で「赤丸」や「紅白」などがあり、それを華北群と交配させた「レディーサラダ」などもあります。

肉が青い「青長」や赤い「紅芯」、皮の赤い「赤長」や「赤丸」は中国ダイコン。(「紅大根」には長崎産もあり)

皮の黒いのは「黒長ダイコン」やスペイン産の球形「ラウンドブラック」など。紫や灰、茶や褐色の皮もあり、主にサラダに使われます。

食材館 だいこん

食材としてのダイコン

一般的には夏大根は辛く、冬大根は甘いとされます。 ダイコンは主に根を食べます。(正確には根と胚軸部分。根とは地下に埋没した部分を指し、地表に出る青い部分は胚軸)繊維が比較的はっきりしているのが特徴です。

生食のサラダ用などは繊維を切断するように庖丁する「横切り」が適しています(例外は刺身のケン。これは繊維にそった「縦切り」がよいです。繊維が残りシャキっとなる「縦けん」です)

葉に近いクビの部分は汁が多くて甘く、先端部分は汁が少なくて辛いので、サラダには首の部分、オロシには先端部分が向いています。また大根おろしは直線的に荒くおろす程辛くなり(薬味むき)、円形に優しくおろすと甘くなります(天ぷらむき)

皮をつけておろすと汁気が減ります。辛みの元はイソチオシアネートで揮発性ですので時間経過で辛みは飛んでしまいます。おろし生姜と同じくレモン汁をかけておくと褐色にならないという裏技もあります。

また、タコやイカを柔らかくしてしまう酵素もありますので、煮合わせると互いに味を吸う相乗効果もあります。

秋収穫の野菜として越冬用に重視されまして、保存のきく漬物に加工される事が非常に多く、沢庵漬け・べったら漬け、守口漬け、それに秋田のいぶり漬け(いぶりがっこ)なんかは有名です。ぬか漬けにしますとビタミンB類が増加します。

切ったり(切り干し大根)、四つ割りにしたり(割り干し大根)、蒸気で蒸し上げたり(蒸し干し大根)、茹でたり(ゆで干し大根)などの干した乾物は、不溶性繊維が増加します。干し大根の極上は「寒干し大根」ですね。干し大根は主に宮重や練馬系を使う事が多いようです。

しかし実は栄養が豊富なのは普段は捨ててしまう「葉」なんです。 ビタミンやミネラルが集中してますし、カロチンは葉にしかありません。葉を干して保存食にしたものを「干葉」(ひば)と言いますが、割り干し同様最近はみかけなくなりました。両方とも抜群の健康維持食品なんですが。

ちなみに春の七草「すずしろ」は、白上がり系の「山田ねずみ」などの葉です。

ダイコンの効能

ジアスターゼ等の消化酵素や有害物を無毒化する機能性成分が豊富でして、古くから民間療法に多用されています。砂糖漬けは咳止め、大根おろしに蜂蜜を加えて飲むと喉や虫歯、さらに二日酔いなどにも効果があるとされます。種子はライフクシという生薬名があり、健胃、去痰作用がある他中国医学では肥満の薬として知られます。

だいこんの栄養と保存法

大根の調理

刺身のケンに使うほか、用途はキリがありませんが、サラダや大根オロシの他に、「ふろふき大根」や「ぶり大根」は、輪切りにしてあるていど繊維を残し煮込みます。これは「おでん」も同じです。この場合「コメのとぎ汁」でアクヌキするのが普通です。裏側に十字型に隠し庖丁を入れて浸透を促したり、角の「面取り」をするのも定番の手法です。

刺身のツマとケン

味噌汁などの汁物の具にする場合は拍子木切りや銀杏切りが圧倒的に多いようですね。この場合はアクを抜く必要はありません。「なます」や「みぞれ」や「染めおろし」や「菊、鶴、扇、花鳥などのむきもの」、といった和食独特の用途もあります。

最近の大根はアクがきつくなくなりましたので、それほど徹底してアクヌキしないほうがよい感じになります。

ブリ大根

この料理の主役はブリではなく、味を吸収してしまった大根の方じゃないだろうか、そう思ってしまうほど美味しいですよね。

ブリ大根の作り方

大根サラダなど

「ねじり剥き」にした大根

大根の皮の利用法
だいこんの切り方



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