鍋物の美味しい作り方


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鍋物を美味しく作る

鍋ものはスープ(出汁)である

鍋物には大きく分けて下の三種があります。
●味噌仕立てなど濃い味にするもの
●薄味をつけて煮るもの
●味をつけない出汁(主に昆布だし)で煮、ちり酢(ポンス)やタレで食べるもの

最後のものは「しゃぶしゃぶ」や「ちり鍋」が代表ですが、味をつけない出汁(あるいは水)と言いましても鍋の旨さの裏味はその汁にあります。良質の出汁昆布を神経を使って用いる、水だけの場合でも天然水や最低でも煮切り水を使うなどです。タレが本味だとすれば決め手の隠し味は出汁が絡んだスープだということです。

複数の材料を、張った出汁に通す事によりそれぞれの材料の持ち味を引き出して交錯させて複雑な深みを鍋のスープに持たせる。それが鍋物の特徴だと思います。鍋物の良し悪しはこのコラボの成否にある訳ですね

それが成功したのを実感できるのが鍋の締め括り『雑炊』です。

美味い雑炊のコツ

鍋物の最大の楽しみは最後の雑炊だと言い切る人は珍しくありません。
鍋の滋味はスープにあり、それを直接食べるに等しい雑炊なのですからそれは当然なのです。(雑炊だけでなく粉物、例えば麺等も含む)

美味しい雑炊のコツだけ少しばかり挙げましょう

◆土鍋を使用する
◆炊き上げたご飯は必ず流水で洗って粘りを取る
◆だし汁はご飯の三割増し
◆中火で煮立て、卵を溶き入れたら火は止める
◆梅、シソ、海苔、それに良い塩が決め手

それ以前の段階として良いダシが肝心なのは言うまでありません。

寄せ鍋

この鍋は雑然さが持ち味になっており『何でも鍋』状態になっています。基本は出汁に薄味をつけて陸海の材料を煮てスープの味で食べる鍋。

味噌味もありますし広義に考えればちり系以外の鍋は全て寄せ鍋の範疇になってしまうでしょう。 地方色が濃いうえに材料に決まりもありませんで、この鍋に言及するのは難しいのですが、材料が雑駁とはいえ「えぐみのある食材」は使わない事です。

加熱でアクが出る材料ですね。魚介のアクは同時に「旨味/出汁」でもあるのですが、野菜類で一般的にアクが強いとされるものは避けたほうがよいでしょう。スープの調和を乱してしまうし、何より雑炊がだいなしになります。つまりお鍋は雑炊を美味しく食べる事を念頭に作ればよいのです。

基本の味付けは『出汁・薄口醤油・味醂・酒・塩』

水炊き

水炊きは福岡の郷土料理で、鶏を水から煮て食べる鍋です。原型は中国の火鍋子で、それが長崎に伝わり、博多で日本独自の料理になったと考えられてます。

鶏の出汁で野菜などを絡めて食べるわけですが、これも全国に広まるとともに作り方も大幅に地方色などが出て差異が広がっています。

市販されてる鶏のほとんどはブロイラー

「あぶり焼き」(ブロイル)の名前通り、本来は味をつけて焼く事を目的に創られた鶏でして、鍋にするにはコクが足りません。
それで地鶏なんですが、日本には元々野生の地鶏は存在しません。銘柄地鶏は在来種を様々にかけ合わせたものです。しかしやはりブロイラーとはコクが違います。

水炊きの美味しい作り方

元々は鶏の味だけで食べる鍋物ですけど今は味をつけるのが普通です。
地鶏はスープを活かしたいので、水から時間をかけて煮ていきます。
生のまま肉を入れますので、アクを徹底してすくい取ります。

博多風のコッテリにしたければ、ガラを強火で沸騰させながら白濁したスープを作っておくとよいでしょう。透明なスープは弱火から中火で作ります。

肉が簡単にほぐれるくらいの柔らかさになったら、一度取り出します。ここで鶏肉を冷水で洗っておくとスープが濁りません。出来たスープに好みで一番二番出汁を加え、薄口醤油、味醂、酒、塩で味を調えます。

物足りないくらいの薄味にした方がよいです。もし良い地鶏でしたら出汁を加えるのを止めて塩味だけで整えても美味しいです。(昆布のみを入れて味を付けず、ポン酢などで食べる「ちり・しゃぶ風」の作り方もある)スープを中火にかけながら、先ほどの肉や下ごしらえした野菜を入れ程よく煮えたら出来上がり。必要以上に加熱しないのが肝心ですね。

カキの土手鍋

牡蠣に豆腐、春菊、セリ、ほうれん草、白菜、長ネギ、しいたけ、こんにゃく等を足しまして、白と赤を好みで合わせ酒と味醂で練った合わせ味噌を、土鍋のふちに土手のようにのせ壁を作り、昆布だしを入れ、野菜を煮て行きながらこの土手を少しずつ壊して出汁に溶かし、カキを加えて食べる。このなんとも楽しい鍋が、カキの土手鍋です。

味噌ベースの土手鍋ではなく、塩味、醤油味、かき雑炊などカキの汁物すべてに言える事は『加熱し過ぎない』です。カキの強烈な風味は火が入るごとにエグミとなって汁に溶け出してしまうからです。グツグツ煮込まない方がいいです。

ぼたん鍋

ぼたんとは猪肉のことで、ぼたん鍋はイノシシ鍋ですね。これはみなさんご存知だと思うんですが、ではなぜぼたんなのかって言いますと。実は単純な話でして、ごらんの様に皿に盛るからです。

牡丹の花の様に盛り付けます。
と思われてますが(笑)
本当は『唐獅子に牡丹』の唐獅子からとって付けたもんなんですね。獅子とシシってわけです。肉の色が濃いのも牡丹の由来と云います。この深い色合いから『山くじら』の別名もあります。

お味の方は一言でいえば「濃厚な豚肉」ですな。
脂身がくどくないところとか、イベリコ豚やアグー豚に似た部分もあります。
(つまりああいった銘柄豚は野生に近い部分があるってこと)

食べにくい一般の豚やイノブタの脂身と違い、サクサク食べれて甘味を感じる美味しい脂です。コルステロールもそう多くはありません。

猪は冬の短い間が猟期でして、山の深い地方での郷土料理という感じです。本土にいるのはニホンイノシシ、奄美・沖縄はリュウキュウイノシシ。オーストラリア等からの輸入や各地の飼育ものが多数で、野生国産は一般に出回る事はほとんどありませんでした。しかしネット販売が普及して、比較的入手しやすくなってる様です。

野生の猪の一番美味い食べ方は

ハンターに付いて山道を歩き回ってヘトへトになった後、山小屋の囲炉裏に鉄鍋を掛けて作る「味噌鍋」です。 美味とは主観的なものであり、それはロケーションで左右されるものです。ですからアレに勝る味は再現できるものではありません。

内容物をしごき出してぶつ切りにした胃腸や皮を剥いだ身を冷たい川水でよくさらしてから鍋にします。あの脂身のプリプリとモツのシコシコは記憶から消えません。野生肉独特の臭みを抜く為に大量の味噌をぶちこんだぼたん鍋は美味かったです。

古老から聞いた猪肉の美味しい食べ方は

雪が降ってからの猪を食べること
徹底的に煮込むこと

変わったところでは、
「瓜坊(六ヶ月未満の子猪)が一番うまいが、食っちゃなんね」こと(笑)

塩コショウだけでステーキにしても野趣あふれて大変美味しいのですが、やはり少々硬くなってしまいます。そこでタマネギおろしとサラダ油を同割りで作ったマリネ地に漬け込んだり、赤ワインと煮切り酒と天塩で作った液に漬けたりしてから焼くと、柔らかく美味いステーキになります。おろしフルーツなども種類によっては肉の蛋白質分解を促進させる酵素を持ってます。パイン、キウイ、パパイヤ等がそうです。かたい肉を柔らかくコツですよ。憶えておきましょう。

キジ鍋

雉(きじ)は淡白でクセがなく、古来から鳥獣肉では一番美味いとされて来ました。余計な脂肪分も少なめ。この鍋を囲めば、誰でも黙って箸が出るってもんです。

「けんもほろろ」って言葉がありますが「剣もほろろ」ではなく、この鳥の「「ケーン」という鳴き声からの由来だそうです。日本の国鳥でありながら狩猟が可能という複雑な気持ちになる鳥です。確かお札の図柄にもなってましたね。その昔は宮中の新年の祝宴で「きじ酒」なるものがあり、お燗を雉肉に注いで飲んでいたそうです。

鍋物のポイント

繰り返しになりますが美味しい鍋物のポイントはスープです。
美味しいスープの基本は良い素材で出汁をひくこと。植物系、動物系、どちらにしても良質の素材の、良い出汁の出る部分を選びます。

そして美味しい鍋物のコツ、つまり美味しいスープを作るコツは、固定観念にとらわれないってことになります。鍋物を美味くする秘密は「隠し味」にあるからです。

個別に詳細は書きませんが、ヒントを列挙しておきましょう。
塩辛珍味類・魚醤(しょっつる ・鯛ひしほ・雲丹ひしほ・いしる等)酒粕・腐乳・蝦醤・ネギ油・いわしエキス・ナンプラー・シャンタン・ヤンニン・乳製品・発酵食品等

肝心なのは、「隠し味」を「表味」にしない事。
量はあくまで控えめにしないと、失敗します。

同系の物を使うのも基本。
魚には魚エキス、鳥にはチキンエキスといった按配。基本ですからエスプリは構いません。魚にチキン系も試すという感じ、ピタリ決まらないとメチャクチャになるので注意ですが。正しく使えば確実に味の幅が広がり、深みも増します。そして出来たスープに、魚、肉、野菜を加えていく事でそれらの旨味が溶け込み、さらに濃厚なスープになり、それを一滴残さずいただく為に雑炊が待っている、って段取りですな。

家族の絆が薄くなっている昨今、鍋は貴重な食文化です。
ひとつの鍋を皆で囲んでつつく、このスタイルは江戸時代以前にはなく、比較的新しい形ですが、大変良いと思います。子供時代に味わった良い味覚は、記憶の底にいつまでも残ります。そこに家族の団欒の記憶も加味される事で、その人の人間性に厚みを養う結果にもなりえることでしょう。

最後に鍋料理の注意点を書いておきましょう。

★魚の下ごしらえは完全に
(血やウロコなどの残ったまま鍋に入れれば、生臭いだけの魚汁。下煮{霜降り・湯引き等}して綺麗に洗ってから)
★スープは薄く作る
(吸い物は最初の一口、鍋は最後の一口)
★沸騰は最初の一度だけ、あとは沸かしてはいけない
グツグツではなく「泡が踊る加減」をつかんで下さい
(「しゃぶしゃぶの湯」も「すき焼き」も同じ)
★アクは丁寧に取り去る
(これをしないと、最後の雑炊が不味くなります)
★香りの強い野菜で素材をころさない
(香味野菜はクセのある魚貝・肉とあわせましょう)
★水気の多い野菜は下煮する

スープが残ったら煮こごり状態で保存し(冷蔵庫に入れておけばよい。動物系が少なく濃度が足りない場合はゼラチンを)お惣菜の煮汁にしましょう。栄養素と旨味が溶け込んでいます。一滴残さず使いましょう。

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手前板前.魚山人:The person who wrote this page筆者:文責=手前板前.魚山人