アンコウのサバキと鮟鱇料理

  

あんこう(鮟鱇)

漁師は鮟鱇を「汐待ち」って呼んだそうで、うまくすると腹に魚が一杯入ってるから、つまり宝袋の様な魚だそうです。20キロにも成長しますが、旨いのは10キロ前後。

腸以外に捨てるとこがなくて、ヌノ又はフンドシ(卵巣)、水袋(胃)、エラ、トモ(尾)、柳肉(身)、そして一番旨い、皮、キモ(肝臓)を、『アンコウの七つ道具』と言います。

西がフグなら東はアンコウってなもんです。



アンコウのさばき

アンコウは軟骨だらけでぐにゃぐにゃしており、表面から粘液(ノロ)が出て、捌くのはなかなか大変。その大きさとグニャグニャの魚体は、まな板では非常に捌き難いので、普通は吊るしてからさばきます。 「鮟鱇の吊るし切り」ってやつですね。

下顎に大きなカギを掛けてぶら下げ、口から水を五升ばかり入れて胃袋を膨らませ、これを重石として安定させ、空中において捌く吊るし切りにします。

吊るしたら、口から水をたっぷり入れて、まずヒレを切り取り、次に口の周りに包丁して、そこから皮を剥ぎ取り、腹を切り裂き、中身を取り出し、身を三枚におろします。

でも実際には、まな板で普通に捌く事が多いですね。おいら達はめったに吊るし切りをする事はありません。時間があまりない時とか、一般的なサイズなら、まな板でちゃっちゃっと捌いてます。馬鹿でかい鮟鱇なら吊るしますけどね。

鮟鱇まな板さばき

まず口下の部分から皮を剥ぎ取り、胸鰭を切り落とし、内臓を出し、鰓と柳肉を切り取る段取りです。

まな板に載せ

口の辺りに切目を入れて、そこから背皮を剥く

返して腹皮も同じようにして剥く

先に大事な肝を抜いて

あとは三枚におろすだけです。

アンコウの七つ道具

捌いたアンコウの食用部分を「七つ道具」と称します。

七つ道具

【キモ】 肝臓ですな。アンキモです
【カワ】 コラーゲン豊富な皮。とも酢で
【水袋】 胃袋です
【ヌノ】 卵巣。別名「ふんどし」
【エラ】 鰓
【ヒレ】 鰭
【身】 身肉。だい身、柳身とも呼ぶ場合あり


以上七箇所を称して「鮟鱇の七つ道具」といいます。

他は
尾びれを含む尾の身を【とも】
頬肉(顎肉含む)を【柳肉】

頬肉は柳の葉に似た形から(なので身肉も柳肉と呼ぶ場合あり)、尾肉のトモは漁船の後部名称からでしょうか(ヒレをトモと呼ぶケースもあるようです)、いずれにしろ命名は漁師達でしょう。

骨の硬い部分、鋭い歯、目玉と腸以外は全部食べられるのです。
(目玉と腸は不可という訳ではなくあえて食用にしない)

あんこうの料理

「鮟鱇のとも酢」と「鮟鱇のとも和え」は非常に名高くなりました。漁師伝統の作り方を書いておきましょう。

とも酢

キモを弱火でカラ炒りしてほぐす
すり鉢へ移し、味噌、砂糖、酢を加え当たる
皮と身を一口大に切ってゆでた後、冷蔵庫で一晩。
煮凝りにしたものをこの「とも酢」で食べるのが漁師流です。

とも和え

やはりキモをフライパンでカラ炒りし、野菜類を加えるもの

※和食での「とも酢」「とも和え」は、丁寧にアンキモを下ごしらえし、蒸して裏ごしにかけて調味料と合わせます。「とも」とはもちろん同一の魚貝の内臓と身などを合わせるという意味。主に肝と身肉を合わせる調理法に「とも」を付けます。

その他

七つ道具はすべて鍋にぶちこんで食べられますし、ほほ肉(柳肉)は刺身にもなります。もちろんエラも食べられます。が、正直いって鍋にあるエラに手を出す者は少ない。やはり生臭さが残るからですし、形もね。

鮟鱇エラの料理

そこで以前紹介した「ブリのエラ、〈ぶりかげ〉」よろしく別の料理に。臭みが残るのは「血」のせいです。徹底的に血を除いて綺麗にするのがポイント。

こうすると上質の鶏軟骨の食感であり、臭みはゼロです。

ブリのエラ料理



鮟鱇の生態や種類

大海を泳ぐのを嫌い、澱んだ場所から動かず、ただひたすらエサとなる生物が己の口に迷い込んで来る事を期待して生きる魚がおります。回遊魚とは反対の魚というわけです。

泳ぎに適さぬ体型であり、スマートな他の魚類を追うのが不可能なゆえに、動くのをあきらめ、ますます醜さを増した。ここまで言っちゃ可哀想だが、そうとしか思えぬブサイクさ。

外には「釣り竿」を突き出し、外見は「口だけ」に見える。内臓と言えば胃袋と肝だけであとはぐにゃぐにゃして何がなにやら得体が知れぬ。軟骨の背骨がそれに拍車をかけ、まったくもって醜魚。しかも産卵期を迎えると小さなオスは大きなメスに食われてしまう事もあるという情けない生態。

しかしいくら怠け者と言えど、そうそう魚が簡単に釣れるわけもなく、時には泳いで海面に出ることもあるそうです。なんと胃袋から海鳥の「カモメ」が出てきた事もあるとか。これは北米東岸にあるステートン島(ニューヨーク市リッチモンドのスタテンアイランドの事かな?)での出来事。ニシアンコウでしょうね。

国内の記録によれば1936年に東両国の魚屋が築地で仕入れた八貫五百匁(約35キロ)のアンコウの胃袋からクチブトウミガラスが出てきたと言いますが、この海鳥は魚を追って潜水しますので、あるいは海底で待ちうけて「釣った」のかも知れませんが、なにしろアンコウが棲息するのは海底なので、やはり腹が減って狩りに出かけたのでしょう。

先ほどから「釣った」と書いていますが、アンコウは上顎の上部に釣竿としか表現出来ないアンテナ状の突起を持ち、これをゆらゆら動かし魚を集めてエサにしております。擬餌針の働きをもっているんですね。体を海底の砂泥に埋めてこの竿だけを出し、360度回転させる事ができるというからあきれてしまいます(笑)
「鮟鱇の餌待ち」
辛抱強さ(?)に感心するやら呆れるやら。

※鮟鱇の餌待ち
鮟鱇の汐待ちともいう言葉もあり、これはうまく当てると胃袋に他の魚が沢山入っていて損はない事から。

※発光する突起を持つチョウチンアンコウは食用にするアンコウと別種

日本近海には約70種のアンコウが分布しているそうですが、我々が食用にするアンコウは限られた種のみです。アンコウ科の「アンコウ(クツアンコウ)」と「キアンコウ(ホンアンコウ)」
他にフサアンコウ科の「ミドリフサアンコウ」というのがいますが、やはり一般には前記の二種類が本筋です。海外では「アングラー」と呼ばれる大型種が食用になってます。北米に分布する「ニシアンコウ」と「アメリカアンコウ」です。

しかし醜魚は美味いもの。夏がオコゼなら冬はアンコウでしょう。両者ともブッサイクだが味は折り紙つき。


著者:手前板前 魚山人
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