包丁や砥石の手入れ



包丁砥石のメンテナンス

包丁にあまり関心が無い板前が増えました。寂しい話ですわ。

板前と切っても切れねえ仲だってのに、どうなってんでしょうかねぇ。

大金はたいて本焼を買うんですがね、これは大事に使えば一生持ちます。そう考えれば高くはない。丁寧に使用すりゃ、そうそう減るもんでもない。

けど、普段はあまり使わなくなります。やはり刃こぼれしたりするもの嫌だし、結構メンテも大変。本焼きでなきゃダメって場面でしか、持ち出さなくなってきます。

性能やメンテに優れたうえに、しかも高機能という包丁が増えたってのもありますね。

「錆びない包丁は切れない」は、もう昔の話。今じゃ魚をさばくにも何するにも、牛刀を使う事が多くなりました。まぁ、出刃じゃなきゃ駄目なもんもありますが。

最近通常使いはこの二本で間に合わせてます。

自分も含めての自戒を込めてですが、最近の板前は本当に牛刀をよく使います。洋包丁ですね。便利だからです。

和包丁の意味

この国の料理文化は鮮魚を生食するという特異性がありまして、ために割烹の「割」
つまり切り割く料理に重きを置いてきました。そこから包丁文化と異名をとる和食文化が発展してきました。

和包丁はじつに多彩で、全部で40種くらいあります。

そのうち「薄刃」や「剥き包丁」などほんの数例以外は、ほとんど全部が魚をさばく為に特化した機能を持つ「魚包丁」です。

先人達の知恵と技術の結晶とも言える和包丁達。
おろそかにしちゃいけないな、そう思います。

包丁・砥石の手入れ

出先で使用したり、急ぎの場合などに、緊急に刃をつけたい時があります。その場合、小型の刃付け道具で刃を出すケースもあります。

こうした場合には必ず後で砥ぎ直しておきましょう。
でなければ丸っ刃になってしまいます。

あと砥ぎ方なんですが、 やはり肝心なのは砥石です。
少しでも偏りが出たら、マメに水平に直しておきます。

砥ぎにかかる前に、全体の形(歪みや反り)を確かめながら、全体像を把握しておくのは大事です。つねに頭の中に包丁全体の構造をイメージしておくわけです。

反りから先の切っ先部分は、引き砥ぎします。逆の研ぎ方になりますね。ひらがなの【し】の字を描くように、上から下へ(下画像)片刃の和包丁は基本的に、片側しか砥ぐ必要はありません。

包丁をダメにしてる方の特徴は、裏側をガシガシ砥ぐ事ですね。
片刃包丁の裏側は【バリ】(かえり)を戻す以外に磨く必要はまったくなく。裏側を砥ぐのは包丁にとって最悪です。

表からのバリを取るためだけに裏を砥ぐ(下画像)

使い終えた砥石は、日常的に使う場合、濡れ布巾をかぶせ、さらにビニール袋に入れておくと乾燥しませんので、研ぐたびに水を吸わせる手間がはぶけます。そうしますと使う時にコッパを軽く当てるだけですぐ使えます。

包丁手入れの秘訣 【ソリ】

包丁の手入れについては自分なりの考えがありましてそれは、ソリから切っ先にかけてのカーブが非常に重要だって事です。この部分がナマクラじゃ包丁砥ぐ意味が無いし、まともな仕事なんぞ出来ゃしません。

ここの切れ味が良ければ仕事にも何の支障も出ないって意味で、これを裏返すとね、この部分の手入れがまともにできたら包丁の寿命を何倍にも延ばせるって事なんです。

この包丁を御覧下さい。先の刃の部分が白色に光ってますでしょう、ここが大事なカーブ部分です。

この柳刃は買って12年。尺1の寸(刃渡り33センチ)でしたが、ほとんど減っていません。使っていないわけでも、研ぎをサボってるわけでもありません。ほとんど毎日使います。でも減らない秘密は、カーブ部分の切れ味です。

おいらがやる手入れはここに刃を付けてやるだけなんですよ。

包丁鋼材

刃物用鋼材としては、何と言っても『青一』がナンバーワンの(硬度、価格で。総合的に刃物材として一番という訳ではない)座を独占しているんですが、それを上回る青だってんで『青紙スーパー』なんてのが出ました。かと思えばステンレス特殊鋼も凄い。白紙にクローム、タングステンを増やした『銀三鋼 』なんかの本焼はもうステンレスとは思えないって驚いてたら、次は『V金10号』。

そしたら木屋さんが、「これがとどめだ」って感じで『粉末合金鋼・コスミックスチール』を出してきた。こういったのは良く切れるし、安くメンテも容易です。扱いにくいうえに高価な炭素系本焼は影が薄れる一方ですなぁ。しかしおいらは和鉄本焼にこだわっていきたいです。刃物は実用性だけが魅力じゃありませんからね。

焼入れが成功した刃物は、一種禍々しいほど人を吸い寄せる輝きを放ち、その妖しさは表現不可能です。ものづくりの怨念が結晶したかの様な日本刀。その流れを継ぐ本焼包丁の魅力を少しでも伝えたいですねぇ。





手前板前.魚山人:The person who wrote this page筆者:文責=手前板前.魚山人