【うなぎ裂き包丁】 江戸サキ、名古屋サキ、京サキ、大阪サキ、九州サキ


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鰻裂き庖丁とは? 裂き庖丁種類

鰻

鰻はなぜ背開きと腹開きがあるか

ウナギの裂き方は関東では背開き、関西(中部以西)では腹開きです。

その理由は蒲焼きに打たれた串の存在にあります。

関東の蒲焼きには幾本もの串が刺さっておりますけども、西の蒲焼きにはこれがございません。

関東の蒲焼きに串が打たれている理由は、焼く前に「蒸し」の手順があるからです。長い鰻を蒸すにはカットした方がよいが、そうすると身が縮れるので串打ちしなきゃいけない。

ウナギの蒲焼 背開きの関東型


画像元

腹から裂いたウナギではこの串打ちの具合が良くありませんで、蒸しと焼きの工程に耐えられもしません。串の入孔と出孔がしっかりとした背の筋肉である事で串がズルズルになるのを防げるし、皮目の破けも無いのです。

と、まあ上のは関西時代の親方から教えてもらった話で、ウン十年前のこと。アチコチ覘いておりますとね、西の裂き方でも金串を打って焼く場合が多いですな。こいつは「縮れ防止」って言うよりも、鰻の蒲焼に適した「下火」で焼くのに便利だからでしょう。

つまり「蒸しの竹串」、「焼きの金串」って感じで串は打つ。

竹と金の違いは火にかかる時間の問題。西焼きだと焦げます。
上火で焼く場合は焼き網に並べて金串を打たないが、縮れない様に皮目から焼く。

関西風の腹開きの直火焼き(下火の金串または焼き網のみ)

だから腹開きと背開き違いに意味を求めるとすれば、西の蒲焼きはカットしないが東は蒸し器の都合でカットして竹串を打つという事になりましょうか。

どちらの焼き方が美味いのか。そんな事を言ってたら馬に蹴られて死んじまいますので書けないのですが、一見したとこ手間の掛かる蒸しの関東が洗練されるように思いますけどもね、素材に適した調理法としては直火で脂を切って捨て、その脂が墨の煙を呼び、その煙がウナギをスモークする。この西の調理法が上ですな。カットしない1本焼きも旨味を逃がさない。蒲焼きとして理にかなっております(近所の鰻屋の親父が読みません様に 怒るに決まってるもの 笑)

なんで東と西でこんな違いが出たのか。
それは多分「関東の濃口」、「関西の淡口」でしょうかね。
つまり醤油です。

蒸した方が醤油タレがのりやすく、色合いも関東人好み。関西は黒い仕上がりにする必要はないので直火。分岐点のあたりの名古屋に「たまり」があるのが面白い。
(溜りは主に東海3県・九州)
まぁ昔の話で今は混沌としてますし、違う話になるでこのくらいで。

鰻裂き庖丁は5種類

鰻を裂く庖丁は独特の専用包丁でして、鰻職人や河岸の者は下の様な鰻裂庖丁を使っております。これは関東型で「江戸サキ」。同じ形のもっと小さいのに「どじょうサキ」があります。

江戸サキが一番多く使われている裂き庖丁になると思いますが、大阪へ行きますと一見「切り出し」に見える「大阪サキ」がありますし、

お隣の京都には「京サキ」があります。

こいつは九州地方の「九州サキ

普通和食板前や寿司職人はあまりサキ庖丁を使いません。所謂「専門用庖丁」なので、ソバ屋の「そば切り」などと同じく、「うなぎ屋」か、長モノを扱う業者さん用と言えます。鰻を裂く必要があるときは「穴子を裂くのに使う庖丁」で代用します。出刃型のチビた庖丁ですね。

穴子を開くにせよ、鰻を裂くにせよ、どのみち何十キロって事はほとんどなく、せいぜい10キロくらいですからこれで充分なんです。

ところが世の中には何十キロもの穴子や鰻を裂かなきゃいけない仕事がいっぱいあります。げんにおいらも昔そういう状況になった経験が何度かございます。うんざりしますがやるしかないわけですよ仕事だから。特に活けの穴子や鰻は疲れます。

最初はいつも通り小出刃でやってましたけど、ふと「もっと速くさばける方法はないんだろうか」と思いました。色々考えてみますとね、数をこなす場合出刃はこの切っ先に疲れる理由があるような気がしました。

サキ庖丁も同様に切っ先が尖って鋭いので同じ事。

大量裂きに一番適したサキ庖丁

活穴子を何箱分も抱えて閃いたのは昔岐阜で見たことのある庖丁。
「あいつは完全に先っぽが無かった、もしかしたら・・・」

そこで栄だか、小牧だか、一宮だか、柳ヶ瀬だか、(何処なんだか 笑)にいる板前仲間に送ってもらったのが「名古屋サキ」

中京圏のウナギ裂き『名古屋サキ

ウナギやアナゴを捌いた方はご承知でしょうが、「目打ちをして、カマ下から包丁を走らせる」というサバキにはね、「切っ先の鋭さ」というのは殆ど必要性が無いんですよ。腹もしくは背の皮一枚残す「開き」ですから、考えようによったら「先は無くてもよい」ってことになります。これを形にした物が名古屋サキかもしれませんね。

これが案の定非常に使い易い。あまりにも使い勝手が良いので禁じ手として持たない様にしたくらいです。便利過ぎる。板前は小出刃で十分。

でもこれは板前だからそう考えたのであって、専門的に穴子や鰻を大量に裂く仕事にはとても優れた道具だと思います。大量のメソッコ穴子裂きにため息ついてるそこのお兄さん、試す価値はありますよ(笑)

一昨年だか、例の問題で輸入ウナギが激減する騒動がありましたが、今年は土用の丑の日が二回ある事などもあり輸入が増加したといいます。

やれ安全だの安全じゃねぇのだの大騒ぎですが、肝心な事を忘れておりますな。ウナギの供給はほとんどが養殖だってことですよ。

『養殖』って聞いて誤解する人が非常に多いです。
養殖生産っていえば作っているみたいなイメージがあるんでしょう。ところがマグロと同じく「天然物の赤ちゃんを獲って育てる」だけなんですよ。これはめちゃくちゃ食っていればそのうち消えるって意味です。

仮に同一人種で構成された国があるとして、その国で生まれた赤ちゃんの半分以上が消えたらその国家は消滅します。

絶滅するんですよ自然の生き物はね。

げんにこのままじゃ絶滅するってんでEUは2007年にヨーロッパシラスウナギの規制を決めた。これは中国経由の安いウナギは近いうちに食べられなくなるって事を意味しています。

現在の様な安い値段のウナギの蒲焼が食べられるのは、近い将来に「ああ懐かしい思い出」って過去の話になるんでしょうかねぇ。

しかしまぁ「売る物が多すぎて困ってる大手スーパー」や「買うものが多すぎてワケが分かんねぇ日本人」はそうなっても別に気にもしないと思いますけどね。 鯨と同じになんなきゃいいですねぇ。

裂き包丁の画像元



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手前板前.魚山人:The person who wrote this page筆者:文責=手前板前.魚山人