回転板前の仕事

  

回転寿司と寿司職人

評判の回転寿司があると、家族や店の若い衆と食べに行きます。あの業界には仲間も結構流れてますし、色々縁もあります。

食べる側の客の視点からすれば、いちいち注文しなくてもいいし、すぐに食べれるし、値段もはっきりしてるし、味もそんなに変わりない(?)気がするし、第一皿がくるくる回ってて面白いし、そんな感じで人気が持続してるのが良く理解できます。消費者の感じは大体そんなものでしょう。

初めて登場してからもう30年は遙かに越えていますね確か。今や一般のタチ店を完全に凌駕してる状態で、そのあおりで個人店の寿司屋は経営が難しくなってる側面もあります。しかし立派に繁盛させている個人タチ店経営者もいますので、だから回転寿司がどうこう言う問題では無いですね。(*回転が生まれたのは約半世紀前です)

しかし一つ見逃せない面があります。
それは消費者側からは分かりにくい、「寿司職人の仕事」の問題です。

あの皿が乗っかってるレールを「レーン」と呼びますが、大体の店では100枚以上の皿が回せる様に設計されてます。一枚の皿に2カンの寿司がありますから、200カン。ネタが用意されてる状態でしたら、手の速い職人なら一人で20~30分もあれば握れる数で、たいした事はありません。

そこが誤解の元で、お客がいる事を計算してない考えなんですな。腹を減らしたお客が10名座って10皿を抜いてしまうのは、瞬間的な出来事なんですよ。つまり100皿なんてあっと言う間に無くなるんです。

先ほど2~30分もありゃって言いましたが、手速い職人が3名4名必死で握っても満席になったお客に対応するのは物理的に無理なんですよ。

これをどうやって回避してるかといえば、レーンを三分の一以上「抜かれない」様にして「流す」わけです。それ以上抜かれる「スカスカレーン」になって、なおかつ待ち客がある状態が続いてたら、もう握りだけでレーンを埋めるのは不可能になります。

もし抜かれてスカスカ状態になれば客がお好みで注文してきます。10名の客が二品ずつ注文したら40カン。そのネタを揃えてる最中にまたさらに別の客が注文してくる。職人は機械じゃないし、メモできる訳じゃない。まして聖徳太子じゃない。

無理なんですよ、一人の職人が同時に10名くらいの食欲を充たすってのは。

あらかじめ全部作ってあるモンを手渡すだけって話じゃないんだから。

それを経営サイドはやれと言うわけです。回転の板前が混雑時に不機嫌なツラをしてるのは、そういう理由があるんですよ。

ある程度の量が流れてないと埋められなくなり、そういう状態になるわけですね。レーンの中で握る職人は三名前後ですから、もう必死で握るしかなく、「抜かれない」テクニックを学ぶしかないんです。他の事にかまってるヒマがまったく無い仕事なんですよ。

その「他の事」の中に【寿司職人の仕事】も入って来るんですな。
なにしろ普通の寿司店の10倍以上の「シャリ」を握るんですから、余裕などまったく無いでしょう。手は速くなるにしても「まとも」さにかまっているヒマがありませんので、職人本来の仕事なんぞ、「捨てる」しかありません。と言うか、問題はその余裕の無さにあるんです。

そんな回転寿司でも一日中忙しい店というのは都心の一部だけで、他はピークもありゃ、アイドルタイムもあります。職人の数さえ足りてれば、余裕は作れるはずです。

ところがどこの店でも慢性的に職人不足。いつもです。はっきり言って「人間の仕事じゃない」から辞める人が多いわけです。あまりにも忙しすぎるって意味ですね。

繁盛店の職人などは、もう自分でも「寿司を作ってる」感覚は消えてるんじゃないかな。だいたい、機械のロボットしか対応出来ない状態を人間に押し付ける方がおかしい。一日10本~のシャリを毎日握り続けたら、いつかはガタもくるし、おかしくなると思いますよ。(1本のシャリ量は普通のタチ店の2~3本に相当する)

経営側は職人をなんだと考えてるのか呆れてしまいます。それじゃ職人も慢性不足があたりまえでしょう。

都心の繁盛店などたまに寄って知人の職人の話を聞きますと、
「もう何年も前から都心圏内の回転じゃ、ホールに日本人が一人も居ない。外人だけ。きついから日本人は絶対に続かないよ」

そんな会話をしながら、レーンの隙間から職人のまな板を見てましたらば、100円ショップで買ったようなママちゃん包丁で巻物を切り、しかも、刃先が折れちゃってる。店が混んできたら、客を客とも思わない粗野な言動。相変わらずと、あきれちまいましたが、気の毒だというのが本音です。彼等も犠牲者でしかありません。

日本の伝統文化の一つでもある「寿司」が、思わぬ方向から崩壊を「かなり前から」始めてるって事にどんな種類の人達が気がついているのかな。などと考えてみますが、それは多分一部の「寿司の仕事をさせてもらえない」回転寿司職人だけじゃないか。そんな気がします。

回転寿司の歴史と現場



Comment
著者:手前板前 魚山人