日本伝統の家庭料理は世界でも類の無いほど繊維質を含むものでした。「でした」と過去形にしなければいけないのが現在の食卓。
繊維の重要性が認められたのは比較的近年で、2~30年くらいにしかなりません。それまでは身体をただ通過していくだけの無意味なものだという認識を、医者までもが持っていました。
糖尿病や心臓病を含む十種近い現代病が、戦前の日本人に異様なほど少ない事に着目して、その理由が繊維質を多量に摂る日本の家庭食にある事を明らかにしたのが、イギリス人の学者です。
しかし、戦後急速に家庭料理から昔の和食が追われ、今では限りなくアメリカ型に近づいています。和食は貧乏臭く、西洋風がオシャレってワケですわ。
グルメブームで20年、健康ブームで10年。
どうにかこうにか少しずつ和食が健康面でも見直される気配ですが、料理の内容面に関しては、既に手遅れ状態でして、戦前生まれの方々が少なくなって行くのと気配を合わせて、消え去っていってますね。アクで真っ黒なレンコンの煮物などが、日本から消失したのが、その象徴でしょう。
健康食ブームが来たら、本物の健康食は粗末にして失くした自分達の過去だって寸法ですか。皮肉なもんです。
食用になる繊維は、ペクチン等の【果物繊維】穀物に含まれる【穀物繊維】それと野菜の繊維があります。
この中で、おいら達の食卓にもっとも縁の深い野菜を、いかに間違った料理法で食べているかを考えてみたいと思います。
[2]和食の野菜
レンコンの煮物が消えたって事を以前ちらっと書きましたが、ここに問題の多くが集約されてると思いますので、少し詳しく説明しましょう。
これはおいら達和食板前のせいでもありますね。
砂糖に次いで悪い習慣だと思います。
レンコンを扱う時の決まりみたいになってるやりかたってのが、
厚めに皮を剥きまして
酢水でアク抜きして
大体の場合、薄く切って甘酢に漬けます。
アクを抜いて、真っ白な綺麗な色にするためです。
花の形に切った白いレンコンは料理を美しく演出しますが、
それは綺麗な飾り物であって、栄養を摂るための食材とはとても言えたシロモノでは無くなっています。
見た目の美しさに拘る余り食材の栄養を全部捨ててしまう料理法の代表例なんです。この考え方の延長に塗り絵の様な「着色」発想もありますね。
野菜の栄養と繊維は皮に集中してるんですよ。
厚く皮を剥いて酢水に漬け込んでおけば白くはなりますが、それはもうただの抜け殻としかいえませんね。
料理屋ではお金を頂いて料理を出す以上、見た目にも配慮しなきゃなんねぇって事でしょうが、行き過ぎの感を持ってますわ。まして家庭料理にまでこのやり方が浸透しちゃってる。
じゃ戦前の日本家庭ではどうやってレンコンを煮ていたか。
皮なんぞ剥いちゃいません。
タワシで汚れを洗い落とすだけです。
皮つきのまま切って、しばらく水に放せばそれでアクは取れます。
昆布とかつお節で取った出汁に、みりんと醤油、あとは塩。
煮あがりの色は黒くなりますが、十二分に美味い。
栄養が十二分に残ってるからです。
[3]野菜の酵素
野菜の栄養を考えるとき、真っ先に注意すべきなのが【酵素】です。
植物の生育に無くてはならない重要な物質。
しかし収穫された後は、この酵素が内部から野菜のビタミンを壊してしまうんですよ。
十度以下の低温でこの酵素は働きが弱まります。野菜を低温で保存するのはその為ですね。
要するに、生体としての野菜には必要でも、食品としての野菜には邪魔な存在って事です。
空気中の酸素や、光線でもビタミンは壊れますが、酵素は内部から破壊活動をするやっかいもの。
注目すべきは70度の温度で酵素を破壊出来るって事。
沸点以下だから、ビタミンの多くは残る温度です。
つまり先に酵素を壊してしまい、後は弱火で調理すると栄養を逃さず野菜を調理出来る。そういう事ですね。
この理想的な野菜調理を、簡単にしかも完璧に出来るのが
【無水鍋】(圧力鍋とは別種)。ほんの数滴の水と野菜を入れ、フタをして「蒸す」だけです。ほんの少しの火力で、短時間に蒸しあがります。
何故完璧かと言うと、この無水鍋で蒸した野菜は、調味料が「いっさい」無くても食べられるんですよ。<栄養が逃げていない>からです。
この驚異の調理器具、誕生して50年になろうってのに、その能力が広く知られず、何故かあんまり普及してません。
かつお節削り器と並び、おいらは日本の七不思議の一だと考えています。
Posted by 魚山人 2008