モノ作り達の未来<



灯火なき航海モノ作り達の未来

凍えるアスファルトから氷柱の蜃気楼が立ち上る様な深夜の中央区。いくらコートの襟をつまんだところで冷気は足元から容赦なく体に喰らいついて来ます。暖の有る季節なら薄く朝日が差そうかって時間なのに、漆黒の空は街明かりを吸い込むだけで素っ気ないもんです。

銀座の夜は変わった。
殊更この街に明るくなくても、世情に疎い人間でさえもそう感じていると思います。今までだって何度も不景気な時代はあった。景気後退なんて一世代に何回も起きるもんなんです。でも今回のはね、不景気じゃないと感じるんですよ。

『頭打ち』だと思うんですね。つまり『限界』って奴です。

この100年間人間がやってきた「経済活動」がてっぺん近くまで来てるって事です。もう従来のやり方では先が無いって事が、漸く現実的な事実として認識されているんじゃねぇか。『狩りの時代』はもう終了間際。

『狩りの時代』ってのは一方的に何かを「食い散らす」時代でして、マクロでは人類が地球を喰い、細部では金融が物造り人を喰い、癌が人間を喰い、ウィルスが細胞を喰いって、そういう事です。

元々人類の文明は自然を食い散らす事から始まってますが、地球の大きさに比して人類総数がゴミに等しい時代はそれでもよかった。何事も無かったかの様に元に戻しちゃえるからです。

ところがこの100年の間に科学と経済ってのが腫れ物みたいになっちゃった訳ですよ。超スピードで増殖する悪性腫瘍と変わんない。

このままではパンクするって事は50~60年代から言われていた様です。我々に近しくて分かりやすくそれを伝えていたのは手塚治虫あたりですかね。

それでも人類の99%以上はそんな事はまったく気にせず生きてきました。と言うか気にしてもそれを頭から追い出すことが「大人になる」って儀式でして、そうしななきゃ「社会人」としては立っていけません。
それが「経済=社会」のルールでありかつシステムです。

でもね、悪い腫瘍ってのは宿主が死ぬまで増殖をやめない。
いつかパンクするに決まってるでしょうよ。

なんで悪い腫瘍って決め付けているのか。
視野がシニカル過ぎて狭窄してないか。
明るく「良性」だと考えてもいいんじゃないか。

それなら思い描いて欲しい事があるんですよ。
人口が今の倍の120臆になったとして、あらゆる計算をしてもらいたい。
(現実的には120臆にはならんと思いますが)
その結果弾き出される数値をみれば「良性」とは言えないんじゃないでしょうかね。

人間が悪性とは言っていません。
今の「経済システム」のあり方が悪性だって思うんですよ。

そのシステムから「降りる自由」ってもんが無いからです。

人間は食べる物を作っていれば生きられるのが本当です。
でも今のシステムでは第一次産業従事者でさえも金で食品を買わなきゃ生きられない。ところがこうした話は「共産主義」って事で退けられるだけ。あんなモンは牢獄社会にすぎません。人間に平等は無いからです。

でもアスファルトの檻の中から簡単に出られないこの社会だっておかしい。

シフトへ

世の中で一番目敏いのは金儲けが巧くて大資本を握っている人種です。そうした人々は「欠損」を出したくはありません。
予知能力に近い鋭いアンテナを持っているからその地位にいるわけで、要するに今の景気悪化を誰よりも鋭く分析し、抜け出す方法をチョイスし、そこに手を伸ばします。

「次に喰うもの」を探しています。
ですが、「もう喰うものは無い」って気が付いているはずです。
それでは諦めるか。とんでもありません。利潤を出すのが天命ですからね。

「一方的に喰うやり方」は限界。
ですから【再生可能なモノ】そこに手を出すはずです。

何故かって【使い捨て】を続けて来て、それが崩壊し、これから先も崩壊が止まらない事を悟ったからですよ。頭の切れるこの人種はもう見切りをつけていると思います。「今までの手法じゃ儲からない」と。

錬金術が科学へシフトした様に、21世紀の科学はまた魔術的錬金術にシフトしようとしています。経済に押されて加速的に。それは空気から、水から、真空から、要するに「何も無いところ」から何かを生産し、生産品をさらに循環再生せしめる科学です。
手始めが自然エネルギーの本格開発でしょうな。ソーラーとかね。
本腰が入るのは間違いない。
本当の意味での「リサイクル」の幕が、少しだけ上がり始めている。

しかしながら今現在日本企業の多くは【使い捨て】の設備群を抱えたままで、これから先大幅な方向転換を迫られるのは必至でしょう。

今の若い人の気持ちは、暗闇で船を漕いでいたら急に灯台の灯が全て消えてしまった様な感じでしょうね。船を寄せる港どころか陸の影すらない。

しかし暗黒ではない。
虚飾の翳りが強かったこの100年間の繁栄の時代が終わりを迎え、そして次の時代が訪れようとしているんです。その過渡期なんですよ。

政府がやるべき事は紙っぺらを市中にばら撒くことではない。
第一次産業に若者を就労させ得るシステム構築。
そして【再生可能商品技術】の幅広い底上げです。
一番大事なのは新たなる「モノ作り」を育成する事でしょう。

日本の経済産業構造が変化していく間は我慢する期間になると思います。それでも人工的な灯台の明かりを見る必要はもうすぐなくなると思いますよ。それでは何を頼りに岸辺を目指すか。

それは自然光、つまり【太陽】です。

2009年02月28日魚山人


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