料理屋は合理化の逆を行け  

料理屋は合理化の逆を行け

自分が投資や演出等で関与している海外の料理店。
計算通りというか、願い通りの展開になってきています。

店のコンセプトは「人」
ま、その柱は料理人(板前)ってわけです。

「その人間でしか店のカラーを出せない」
これってのは企業経営として考えた場合マイナスですね。
代替プランがないわけですから。

もしその「人」が去れば、行き詰まり立ち往生。
将来にわたって拡張していくという経営の基本理念から外れます。

「一世代で終わり」
そんな経営方針をチョイスする企業人はおりません。

そこがポイントです。
競争相手がいませんのでね。

「技術を伝えていく」
「跡継ぎに全てをゆだねて技を継承させる」
そんなことなどまったく念頭にありません。

「人間の分身」を作ることはできないからです。
親子であろうともね。

最初から「その人が去れば店も終わり」というのがコンセプトの核心。

これは既存の企業からみれば、非常に困難で、真似はできんでしょう。
そもそも将来の拡張展開を拒否した考えなので、できるわけがない。

だからこそ「逆を突く」ことになりえるのです。




 


初めの時点、「人選び」から不可能でしょうな。
その料理人の技量と人間性の深奥まで知っていないと始まらない話だからです。「本社の机」に座って仕事し、現場もろくに踏まない連中に分かろうはずもない。

だいたいにして、東京に在するその手の会社は料理人軽視。板前など使い捨てくらいの考えしか持たぬ者たちにかぎって、『板前の技』とか『職人の仕事』などを前面に出している傾向が強いです。

なにが『職人の仕事』なんだか(笑)

板前の技量を見極める目もなく、イエスマンを店舗責任者にしてるのが現実。原価率と人件費ばかりを言い立て、総売上高を下げる馬鹿さ加減。そういう企業からは、櫛の歯が抜けるように、仕事の出来る板が去っていく。

【技量のある板前が店から消える】
それが店に与えるダメージをまったく無視していると言えましょう。
無視ではなく、「分かっていない」のが正解でしょうが。

ファミレスでチンした料理を食べるのとは意味が違う。
プロが作る料理には「細部に個性がある」のです。

その部分にお客様が付いているという事実。
ところが『職人の仕事』を喧伝する企業の多くは、ファミレス志向のスタンス。『技』と言いつつ、合理化をタテにまともな仕事ができない環境を押し付ける。

したがって現場に残るのは、
「仕事が出来ないが、要領は良い」者だけになる。

これが料理に反映されてくるのは時間の問題。
「雑になっていく」のですよ。絶対にね。

そうなればお客さんは一人二人と減っていく。
中長期的な売り上げ減少になるというわけです。

そこで「安売り」やらのサービスで巻き返しを図ろうとする愚。
ますます雑になり、サービス期間が終わればそれ以前より客を減らす。
抜け出せぬ悪循環に落ちていくのですよ。


簡単に言えばこれの逆をやろうということです。
「料理人にお客を吸着させる」

そのための方策を初めから計算し尽くすのがポイントです。
「キャパの問題」「売価設定の問題」

なによりも肝心なのは「人以外の」合理化です。
無駄な物は必要ありません。

その人物が「対応可能な範囲」で利益を出せる構造にしておくためです。 これは店の設計をする段階で明確にしておかねばなりません。

いうまでもありませんが、最大の特徴は「最初に人物ありき」です。
誰を選ぶかで成否が決まるのですから。


成否を分けるもう一つの鍵は「欲を出さない」ってことになる。

多店舗展開は念頭になく、メディア露出は極力避ける。
徐々に吸引力を高め、フルになったら逆にセーブをする必要が出ます。

まるっきり「成長戦略」がないわけですが、戦術はある。
こういうやり方は資本に模倣されないという強みですな。


「大きくなること」がすべてじゃありません。
いかに「質」を維持するか、そこの問題です。

どんどん大きくなったからとて、それがどうしたってんです?

人生正味数十年、お客さんとも一期一会。
そこを充実させる方を選んだっていいでしょうが。



これから先、ますます企業側は現場を締め付けてくるでしょう。仕事の出来る、現場の分かる人間を会社から追い払い、素人が現場を動かしていくようになります。動かすというよりも「振り回す」が正確でしょうね。

多くの板前が企業に属してますので、キツイ事になっていくでしょう。
色々と悩む方も多いことだと思います。

ひとつだけはっきり言えることは、そのような会社はいずれにしろ傾くということ。

ある程度は腹を括っておいた方が賢明というものでしょう。


2012年06月22日

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