「良い油・悪い油」というのは、分かりやすくするために使用している語句にすぎず、正確ではありません。栄養の多くがそうであるように、アブラもまた「偏り」が問題なのです。
「動物性脂肪は悪玉」「植物性脂肪は善玉」と考えられていた時代があります(現在でもそう思っている人が多い)
動物性のバターよりも、植物性のマーガリンの方が健康に良いという考えが世の中を覆い尽くし、スーパーなどでの販売だけでなく学校給食などでもマーガリンが推奨される状況になりました。
「リノール酸は健康に良い」という世の常識が劇的に変化したのは、1981年にアメリカ国立ガン研究所が公表した研究報告がきっかけです。
その報告は、【植物油の摂取量が増えるとガンが増加する】という内容でした。
この衝撃的な報告を受けて世界中で脂肪酸研究が進んだ結果、リノール酸など植物油の「正体」が解明されます。
結論からいうと、動物性脂肪も植物性脂肪も、同じように「血管血液疾患・心臓病・癌・糖尿病・免疫力低下」などのリスクがあることが分かったのです。
では、脂肪を徹底的に減らせばこうしたリスクが低下するのかというと、そうではありません。脂肪は必須栄養素でもあり、全摂取量の20~25%くらいを脂肪にしないと、脳などが機能不全になるし、脳血管疾患のリスクが高まるのです。
一例を挙げると、カラダの健康に不可欠の局所ホルモンであるプロスタグランジンは必須脂肪酸が原料であり、このホルモンが極端に減少するとヒトは健康を維持できません。
※プロスタグランジン(PG) 血圧を下げたり、免疫力を高めたり、炎症をおさえたりする重要なホルモン(PG-1・PG-3)。逆に炎症を起こしやすくする型もあり、こちらは悪玉とされる(PG-2) |
では何が問題なのかと言いますと、【脂肪酸のバランスが悪い】ことが問題だったのです。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比率、多価不飽和脂肪酸同士の比率、これらが適正でない事が不健康を招いていたんですね。
世界トップクラスの栄養学者達は口を揃えてこう言っています。 「飽和脂肪酸は3分の1以下に抑え、オメガ3とオメガ6(不飽和脂肪酸・必須脂肪酸)は3分の1以上を摂ること。オメガ3とオメガ6の比率は1:1にすること」
1960年代までのアメリカ人は、全摂取量の40%も脂肪を摂っており、この比率は20~25%が理想なので、この割合を必死に下げてきました。もちろん全食事内容おける脂肪の割合も大事なのですが、肝心なのは「異なる脂肪酸のバランス」だったというわけです。
最も重要なのがオメガ3とオメガ6のバランスです。
オメガ3の代表が【α-リノレン酸】で、これはアマニ油やシソ油やナタネ油などが知られ、葉野菜やカボチャやクルミなどにも含まれています。
α-リノレン酸そのものは単純な構造をしているのですが、酵素の作用で複雑な脂肪酸へと代謝されて行きます。
α-リノレン酸からEPAになり、EPAはDHAにと、複雑な構造へと変換され、最終的には善玉のプロスタグランジンになります。
「ヒトを健康にするアブラ」と云われるのはこの為です。
オメガ6の代表は【リノール酸】
これは植物油の代表であり、コーン油、ダイズ油、ベニバナ油、ヒマワリ油など、普通にサラダ油として使用されているものは殆どがリノール酸系です。昔はこれが健康に良いとされていました。
なぜかというと、必要不可欠の栄養素である必須脂肪酸でもあるからで、特に脳には欠かせない成分でもあるからです。
ところが、リノール酸が酵素で変換される過程に問題があったのです。
リノール酸はγ-リノレン酸からアラキドン酸に変換されます。アラキドン酸とは、肉や乳製品に代表される「悪いことをするアブラ」です。しかしγ-リノレン酸は、アレルギーに効果があるなど「良いアブラ」だとみられます。
そして、リノール酸は最終的に善玉と悪玉両方のプロスタグランジンになるのです。悪玉のPG-2はアルツハイマー病の原因にもなるといわれるもの。
リノール酸は、良いことも悪いこともするアブラだったんですね。 こういうものは、リスクとメリットを勘案する必要があります。そういう研究が進んだ結果、栄養学では「リスクの方が高い」と結論されています。
オメガ6の悪い面を打ち消す作用をするアブラがオメガ3であることも分かり、リノール酸系アブラとα-リノレン酸系アブラを1:1の比率で摂ることが最も良いと結論されました。
ところが、欧米でのオメガ3/オメガ6の比率は、なんと「1:20~30」という、オメガ6しか摂っていないような状態です。
日本はどうでしょうか。
昭和30年代までの日本は、オメガ3/オメガ6比率で、オメガ3の方が多いか、ほぼ1:1だったのです。魚、穀物、豆、野菜、海藻などが食事の基本だったからです。
それがこの50~60年で食事の傾向が急速に欧米化し、インスタントの加工食品などが増えたこともあり、80年代には1:4の比率でオメガ6が勝るようになりました。
さらに「アブラ好み」は拡大し、現在は限りなく欧米に近い比率になっていると思われます。それは外食メニューの「揚げ物・炒め物」の多さをみれば明らかでしょう。
「リノール酸が悪い」
のではなく、
「リノール酸ばかり摂ってα-リノレン酸を摂らない」
これが問題の本質なのです。
このアンバラスが何を招くかというと、肥満と糖尿病、そしてフリーラジカルの発生によるガンと老化、悪玉PGによるアルツハイマー、悪玉コレステロールによる血管血液系疾患(心臓病や脳卒中を含む)、肝機能障害と胆石、痛風などです。脳機能やホルモンバランス、自律神経に悪影響を与え、関連する不調を招いてしまうし、アレルギーに関しては、リノール酸との因果が相当解明されてもいます。