あぶってかも  

あぶってかも

ベラって魚、関東ではあまり食べる習慣がありません。
ベラと言っても種類が非常に多いんで一概に言えませんが、多くの場合は「雑魚」扱い。

ところが西日本では好んで食べられます。
先日愛知県の方から「ベラは美味しいよ」という投票がありましたが、「釣り人は食べてみて」とありましたので、最近は食べる人が減ってるのかな。

熱帯魚のような外観、白身ながら身質は水分が多い。
「あがって」(死んで)しまったら、とてもじゃねぇが食えない。
一般的にはそんなイメージですね。

しかし種類によっては美味いのもあるんです。
一番見かけることが多いベラは【きゅうせん】という名前。

この魚がベラだと思っている人が多く、いわばベラの代名詞。
キュウセンの赤いのが「あかべら」、青いのが「あおべら」です。
キュウセン

釣れたてのキュウセンをさばくと、身が真っ白でプリンプリン。
その状態なら臭みもなく、非常に美味い。
もちろん刺身でです。

ところが元々多い水分が回るほど時間が経てばそうはいきません。
鮮度が命でしょうな、ベラの刺身は。

※沖縄の場合大型種が多く、少し事情が違います
市場に並ぶ重要な食用魚として扱われる
ただしキュウセンは沖縄に生息しません(似た魚はいる)

まあ、夏の終わり頃から秋がベラのシーズンなので、「鮮度」を頭において料理にチャレンジしてみてください。釣り師の多くが「ポイ捨て」でしょうが、食べられるということを念頭に。


で、本題はベラでなく「ベラ亜目」の魚、【スズメダイ】です。
(キュウセンもベラ亜目で、科が違う)

なにしろこの雀鯛、今が旬の真っ最中。
7月中旬くらいまで最盛期です。



すずめだい・アブッテカモ

スズメダイといって思い浮かぶのは、

一般人には「観賞魚」

釣り人には、「餌泥棒」か「外道」

料理人にはマダイの幼魚(つまりスズメダイではなく真鯛)

そんなところです。

ところが海辺の方々にとっては立派な食用魚です。
北関東、山形あたりから下の西日本(九州まで)釣れます。
(海外は香港~朝鮮辺り)

塩焼きや煮つけにして、けっこう脂がありなかなかのお味。
小骨が気になりますが、よく揚げて南蛮漬けにすれば解決。

だが市場価値の無い「雑魚」なので、都会の魚市場に出ることはまずない。鮮度を保持したまま手間をかけて運搬し鮮魚を並べるコストは負えない。

なので新鮮なモノは都会では無理。
海に近い地方の郷土料理としての位置でしょうかね。

近隣の神奈川ではこの魚を「ゴンゴロー(ごんごろお)」と呼んでます。

しかし郷土料理として盛んなのは九州北部から山口、四国の対岸辺り。なかでも博多では【あぶってかも】として店で普通に提供されるほど。

アブッテカモという名は元々料理に由来する料理名で、塩をして軽く干したスズメダイをウロコごと真っ黒に焼いたものを指しているのですが、スズメダイの別名(地方名)として定着しております。つまり「あぶってかも」とはスズメダイの事であり、同時にその料理なのです。(細かく言えば「塩漬けのスズメダイ」を指しています)

「炙って鴨」、つまり焼くとカモのように美味い。
それか「炙って噛もう」なのか、由来はそんな感じでしょう。

もちろん漁師の発案であり漁師料理。
料亭が出し始めたのがきっかけで一般に広まったとか。

カモ説はおそらく料亭発祥。
ウロコごと炙って噛めば旨いとされる説が正しい気がします。

想像にすぎませんが、この料理の源流は【焼き切り】だと思います。
薩摩から土佐に広がる漁師料理であり「鰹叩き」の原型。

皮ごと炙り焼きにして刺身に切るものが焼き切り。
これは現在のタタキのように冷ますのでなく、温いうちに食べます。

アブッテカモの始まりは明治だとされており比較的新しい。
大量に穫れたスズメダイを塩漬けにしておき、それを焼いた。

昔の漁師は漁場を求めて浜から浜へ流れる者が多い。
古くから伝わる焼き切りを知っていた者は当然おりましょう。

焼き切りを試してみてピタリであればそうする。
だがスズメダイは小骨が多く小型。
なのでこの形態に定着していった。

そんな気がします。


食べるときにウロコを皮ごと剥いて食べるというのは料亭風でしょうか。しかしこれでは「アブッテカモ」と言えないのではないか。

真っ黒に焼くのはウロコも皮も食べられるようにするためでしょうからね。

「ウロンも美味かとよ!」という博多漁師の言い分を採りたいです。

なにしろ鮭の皮の炙りと似た感じで、少し微妙な食味。
この「ウロコ皮」は最高の酒肴ですよ。

福岡の鮨屋さんが動画をアップしてましたんで紹介します

2012年07月03日

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