【鯨のたれ】 料理神が鎮座する千倉の町  

【鯨のたれ】 料理神が鎮座する千倉の町

どうも東京モンにゃ千葉を軽んずる何かがある。
「ちょっとハマにでも行くか」はあっても、「千葉行くべ」はあまり無く、誘ってみたら、「え~千葉ぁ。マクハリ?」。ときますんで、「いやもっと奥の方だ」と言うと、「な~んかねぇ、落花生以外に何かあるのー」

失礼にもほどがあるってもんです。
そこかしこに昭和の面影が残る千葉の良さを全然わかっちゃいねぇ。

とくにおすすめできるスポットは南房総は千倉の町。
昭和中期のような繁栄はなく、今では形ばかりですが、ここは漁業で有名な処で捕鯨基地もあったし(和田漁港)、今でも沖合は好漁場ですんで千倉漁港には新鮮な魚がいっぱい。昔はカワハギの干物が名物でしたし、紀州の「土佐の与一」から伝わったという、鰹節も特産でした。

合併でかつての千倉町は消え、今は千葉県「南房総市」になっておりますけども、それは行政上での事で、海の町千倉の面影は今なお色濃い。

ここがおすすめできる第一のポイントは「温泉」があるってこと。
房総で温泉ってのはあまりイメージではないらしく、意外と知らない人が多いが、千倉町は、「千倉館」とか「スパラダイス夢みさき」などの良好温泉施設がある立派な温泉郷。ちなみに千倉館の湯は慢性皮膚病に、その他の湯も主に「美肌」に効能があるとされています。伝説では頼朝公が愛馬の治療に訪れたとか。古来からの湯治場だったんですね。

 

和食の神[ 磐鹿六雁命]を祀る神社

そして和食の板前として何よりもこの地が重要なのは、
日本で唯一の料理神社【高家神社】(たかべ神社)があるって事です。
日本料理の祖神として、料理人や味噌・醤油業者に信仰されております。

「日本書紀」の第十二代景行天皇五三年冬十月の条によりますと、
(西暦53年頃)
景行天皇が安房の浮島に行宮(かりみや)を定めます。

ある時、日本武尊の東国平定の事績を偲び、(あるいはカモメの鳴き声を聞こうと船遊び出た際との説)行宮へ行幸。その折、侍臣の【磐鹿六雁命】(いわかむつかりのみこと)が弓の弦にて堅魚(カツオ)を釣りあげる。 六雁は白蛤(うきむ)も獲り(あるいはアワビとの説)、これらの獲物を調理して天皇に献上します。調理方は鱠(なます)

大層お喜びになった天皇は、その技を称えて六雁に日本初の膳大伴部(かしわでのおおともべ)を賜ります。これは「大膳職」といい、天皇の調理番です。六雁は初代の大膳職に就いた訳です。同時に六雁は若狭の国、安房の国の長と定められます。

そして六雁の子孫も高橋氏として代々大膳職を務めます。
延暦八年(789年)に高橋氏が朝廷に奉った「高橋氏文」には、これらの故事が詳細に記されていたとか。

大膳職がいかに名誉だったかは、もし高橋家に世継ぎがいない場合は天皇の皇子を継がせ、けして他の氏を交えなかった事に顕著でありましょう。

六雁は高倍さまとして宮中醤院で醤油醸造・調味料の祖神としても祀られ、醸造・調味料の神でもあります。

発酵を旨とする三醤【穀物の穀醤 肉・魚の肉醤 野菜の草醤】を司り、これらは日本料理の原点ですので、磐鹿六雁命は日本料理の神なのです。

江戸初期にこの地に祀られ、爾来、高家神社は日本唯一料理の祖神を祀る社として調理師や醤油・調味料業者の信仰を集めているわけです。

ここの境内には「日本伝統庖技継承」と刻まれた庖丁塚があり、毎月十七日に庖丁供養祭を執り行っております。

参道正面と拝殿、隣は庖丁塚

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高家神社では神嘗祭として「庖丁式」を執り行っております。
これは四条流の庖丁式で、もちろん四条流開祖『藤原朝臣山陰中納言政朝』が、朝廷に捧げる儀式として創案したもの。 高家神社はこれを忠実に再現。もう半世紀ほど毎年神前に奉納しております。
千倉で獲れた魚を四条流古式作法に則っとり、一切手を触れず捌く様は見事なものです。熟練の技と伝統の厳粛さを醸し出して見ごたえあり。


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鯨の珍味【くじらのたれ】

神秘的なシロナガス鯨など大型種が多い「ひげくじら」も、シャチやイルカなど比較的小型の鯨が多い「歯くじら」も、その存在は極めてユニーク。特に小型クジラであるイルカの可愛さは群を抜いており、子供の時に読んだ手塚治の漫画「海のトリトン」などの記憶だけじゃなく、おいらはイルカが大好きです。それに今をもってしてもその生態がベールに包まれ繁殖場所さえ定かでない地球最大の動物シロナガスクジラは一種荘厳ですらあります。神の使いの様な気さえする。

しかし最近の妙な映画などを含めた欧米の「反捕鯨」は誤り。
先進国が途上国に「排出量削減」を求める温暖化問題と同じ。

欧米人はクジラを殺戮しまくって大洋を越え、お江戸日本まで来航した歴史を語らず、日本人は残酷だとぬかす。その姿勢は醜い。

日本国は歴史的にクジラを大切に扱い、脂を絞って肉は捨てるといった欧米人の様な「殺戮」などしておりません。古代から愛情を持って獲っていたのです。

可愛らしいイルカとて、巧妙にアジの群を襲い食べる。
その姿は優秀な海のハンターです。
だからと言ってアジという魚が、「残酷」を主張できるのか。

牛や豚や鶏といった家畜にはいかなる愛情もないというのか。
知能が高いと命の重さも高まると、そう言いたいのか。

地球の自然と生物の理なのですよ、食い合うのはね。
生命の重さにいかなる差もないはずです。
動物によって命に違いがあるなど傲慢。人間は神ではない。

ミョウチクリンな「人間の感情」などで介入すべきではない。
あえて残虐なシーンをクローズアップし、残りを偽善で繕ったあの《ドキュメンタリー映画」を製作した精神こそが「残酷」なのですよ。いかに芸術性を持たせようと腐心しても、真に公正さの無い視点ではその浅薄な狙いを隠し切れません。

「絶滅」も「保護」も人間の意のまま。その僭越な態度に、やがて地球は反応するでしょう。ヒトは自分の首をしめている事にそれまで気付く事はないでしょうが、それは確実に将来起きます。


食材への贖罪


しかしもはや「世界の潮流」には逆らえん時代なんでしょう。
捕鯨の町、ここ千倉でも昔の面影は僅か。

南房総特産ツチクジラのジャーキー「鯨のたれ」も、ツチクジラ漁が和田で年間26頭と制限されているため、細々といった按配です。

千倉駅から海岸通り(瀬戸)へ向かうと、「大阪屋」があり、ツチクジラを捌いて「くじらのたれ」を作っています。

「クジラのタレ」は、味付け醤油ベースタレにツチクジラの肉を漬け込んだ後天日で乾燥させたもので、酒の肴にもってこいの珍味。

硬めのビーフジャーキーといった感じで炙って食べますが、最近は半生のソフトに人気があるようです。


鯨のたれ 画像元

国道128号線を少し走ると和田。
ここは捕鯨基地のある町ですが、その捕鯨も今では60年以上の歴史を持つ捕鯨会社「外房捕鯨」だけが行うのみ。

その外房捕鯨の直営店「くじら家」(和田町花園)に行きますと、懐かしい鯨料理の数々の他、珍味類もたくさん。

沿岸捕鯨も例の馬鹿な残酷映画の例もあるし、いつまでも安泰ではないかもしれません。年間26頭も厳しくなりゼロにならぬ保証は無い。

8000千年続いた日本の捕鯨文化が消える可能性は濃い。
篤志を持ち、この地を訪れる日本人が一人でも多くおります様に。


2010年07月16日

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