替り鉢と蓴菜  

替り鉢と蓴菜

『替り鉢』とは単純に言えば代用品という事です。
代替の対象は、
◎煮物に替えて「蒸し物」
◎焼物に替えて「揚げ物」
これが替り鉢になります。

何故『替り鉢』なのか、替り鉢の意味は?
それは和食の基本構成が「一汁三菜」だからです。

『汁椀・刺身・焼き物・煮物』で飯を食べる「一汁三菜」
この焼き物や煮物を揚げ物・蒸し物に変化させる。
それが替り鉢の意味です。

懐石料理の作法
和食の作法[懐石料理と会席料理の違い]

※庶民の食卓は一汁二菜が普通でした。
毎日の食卓に刺身は出ないので「お向う」は沢庵の切れ端とかね。江戸庶民にとって刺身(例えば初鰹)はメインディッシュだったでしょう。

懐石で言う「向附」は鱠になります。

現在料理屋で供される和食のほぼ全ては会席料理。
そこに懐石の流れを取り込んでいたりもしますが、懐石ではなく会席。

「フルコースの和食」というのはそもそも茶懐石の主旨から逸脱しますからね。
懐石とはその字のごとく「軽く小腹を満たすもの」ですから。

現在の会席料理は焼き物・煮物は当然出て、揚げ物も蒸し物も当たり前のように1つのコースで出ますから替り鉢という言葉の意味も変質しています。

コースの「お値段」による献立の増減。
そうした意味しかないんですよ今は。

もともと会席は寄り合いの料理。
人々が集い酒を酌み交わす宴会料理です。
格式張った「きまりごと」は無いも同然なんです。
自由闊達に献立を組み、鉢も様々な使い方をするといいですね。

 

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蓴菜

書きやすい字を当てて「純菜」とか「順菜」と表記するケースも。

夏の山菜として知られるジュンサイ。
ジュンサイ科(ハゴロモモ科)もしくはスイレン科に属する水草です。
ハスやスイレンに似て非なる多年生の浮葉植物。

全国各地の池沼に自生しますが、水質が清く、水深は30センチ程度、適温は20~25℃という生育条件により絶滅してしまったケースもかなり多いようです。

現在は秋田県を中心とする東北などで栽培され、6月~秋口にかけて水中の若い葉や芽、つぼみ等を収穫したものが夏の和食材として流通します。
緑の深い池沼にて一人用の小舟の上から収穫する姿は美しい風物詩。

まだ開いていない若い葉はちょうど今の時期(7月)くらいを中心に収穫。生食にもしますが、主に加熱して冷却し、瓶詰めなどにして出荷されます。

ジュンサイの料理

ジュンサイ(茎の先端の芽の部分や若葉の裏面)は粘液で覆われています。寒天質でゼリー状の「ぬめり」が蓴菜の持ち味

この滑りとぷりんとした歯ごたえ、そしてつるつるの喉越し。
これがジュンサイの魅力です。
蓴菜料理はこうした特徴を失わない料理でないといけません。

加熱を嫌いますし、夏の涼し気な料理でなきゃいけない。
酢醤油(酢の物)や山葵醤油。
あとは椀種(吸い物の実など)とかのお汁の具ですね。
料理法は限定されてるという事です。

ある暑い夏の日のこと、この蓴菜を懐石の替り鉢に使ってみたことがあります。

胡麻豆冨を二重に蒸して冷ます。

これを一晩冷蔵庫に入れて冷やし固めました。
表面に冷たい旨だし餡(透明)を張って出す訳ですが・・・

ここにジュンサイを加えたい。
どう加えればいいか・・・・
一緒に蒸すのは問題外。
飾って上から餡を加えるだけじゃツマラナイ。

考えるともなく考えてますと、ふと目についたのもの。
店にあった親指の先ほどの小さな猪口(ちょく この場合は珍味入れ)
金魚鉢のミニュチュアみたい。ガラス製で綺麗です。

『パールアガー』というゲル化剤があります。
お菓子作りが好きな方はコレで杏仁豆腐を作ったことがあるかも知れません。
寒天と同じく海藻のカラギナンなどの成分から製造する凝固剤です。
※このパールアガーという名は富士商事の商品名

比較的低温の湯(30℃~45℃)で溶けて、
常温(15℃~25度)で固まります。

やり方によって寒天やゼリーよりもツルンとした仕上がりに。
しかも色合いは自在。無色透明にも。

ぷるぷるのスフィア(球体)に閉じ込められた、ぬめぬめのジュンサイ。
そんなイメージが浮かんだのです。

これなら蓴菜の持ち味を殺さず、逆に複雑な食感が増すでしょう。

合羽橋の道具街やホームセンターに顔を出して道具の物色。
手作りすることにします。
冷蔵庫にある「製氷皿」や「たこ焼き器」を思い浮かべて下さい。
ああいう奴をサイズダウンさせた道具を作りたいわけです。

うまいこと作れました。
気持よさそうなプルプル蓴菜も成功。

出来上がった球体を見ると、盛り付けイメージが変化。
頭に浮かんだのは「太陽系の配置」です。

だけどもね、おいらは創作料理を作る人ではない普通の和食屋。
イメージにしたがうと利久豆腐を丸く作り、その周囲に惑星を配置する事になる。

和食器には器としてのルールがあります。
円形の鉢に丸い太陽系を描くのはいただけません。
丸い器には対角線配置が和食盛り付けの常道。
同心円配置はうまくありません。

暮れてなお暑い真夏の宵。
お客さんは汗をかいて店にいらっしゃる。

よく冷やし固めた蒸し物を煮物代りに出す意義もあります。
不等辺三角形を基準にして彩りを配し、ジュンサイの球も乗せる。
仕上げにキンキンに冷えた透明な旨味あんを張る。

お客さんはどう感じるかなぁ。
料理の説明は女将がしますのでおいらの出番はなし。

見て涼を感じ、食べてのどごしを楽しみ、食べ終えて旨味を感じてくれるか。そうである事を願いつつ帳場にひきあげて腰をおろします。

「どうだったかな今日の替り鉢は」
どうであろうとお客様が喜んでくれたらそれでいいんです。
その為に板前になり料理の仕事をしてますので。

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