ニンニクと和食  

ニンニクと和食

板前仲間と寿司屋で一杯。
都合があって今まで訪問した事のないすし割烹店へ。
けっこう大きな江戸前寿司のお店です。

酒を頼み、刺身や一品料理などが目の前に並ぶ。
「おつかれさん」と冷酒を酌み交わし、
さあ料理に箸を付けつつチョコチョコ鮨もつまもうかいって、その時。
横から強烈な臭いが漂ってきて箸を止めました。

鼻をつくニンニク臭。
お隣りの常連さんとおぼしき客が刺身醤油に「おろしニンニク」を。
大将らしいツケ場の板前がその「特製ニンニクだれ」をおいらの隣の客に出している。これに比べればヘビースモーカーが煙草プカプカやってる方がまだマシ。

感覚の問題なので、こんな事が平気で出来る板前には注意しても無駄。
連れに一言、
「悪いけど、俺は先に帰る。またな」
そう言い残し、何も食わずに席を立って逃げてきました。

どうせ料理も寿司もろくなもんじゃないでしょうしね。
だいいち、そんな場所にゃ一瞬でもいたくない。
連れには後で埋め合わせします。きっと理解してくれるでしょう。

ニンニクの強烈な臭いは和食の料理を全て破壊します。
あの臭いと共存できる料理はありません。

なので、板場にはニンニクを持ち込むことさえ出来ないのです。
(まともな店ではですが)

そいつの「おろし」を相席のカウンターで出すセンス。
日本料理をどう思ってるのか知りたいもんです。
「そういう事は家でやってくれ」です。
カネを払う「食客」をなんだと思っているのか。

カツオタタキのタレなど、ニンニクが合うのは分かっています。
しかしお隣さんはカツオだけじゃなく白身の鮃など全てをソイツで食べてました。いくら「グルメ」でも舌と鼻が麻痺してヒラメの味などするわけもない。そういう「世界」とは関わりたくないのでトンズラしました。

最近は和食も洋食の要素を取り入れたりします。中華やイタメシの真似事もあるでしょう。なのでニンニクを隠し味程度に使うケースも増えてきたみたいです。しかし加熱によって香りを移す程度の隠し味であり、しかも献立に加える事はまず無いと言っていいでしょう。賄いや特注料理って事です。生で使うことは考えられません。

だが、それでもニンニクが優れた食材だという点は認めます。

 

ニンニクという食材

ニンニクはニラやラッキョウ、タマネギ等と同じくネギの仲間です。
つまり「葷菜」のひとつという事ですね。
原産は中央アジア。
5000年くらい前から古代エジプトなどで栽培されていた様です。
漢の時代に西域から伝わり、これを漢人は「胡蒜」(こさん)と呼びます。日本に伝わったのは8世紀前後と古く、記紀や延喜式に記述があります。

現在はネギ科になりますが元々ユリ科の多年草でもありましたように、球根を(大きくなる根茎であり茎になる。分球していてこれを「鱗茎」という)利用する植物です。

漢字表記は主に「蒜」ですが、「大蒜」と書く方が多いです。この大蒜は葷菜(蒜)のひとつノビル(野蒜)と区別するための書き方。


ニンニクのむき方

歴史の長い香辛料なのですが、日本ではこれを「薬草」として扱って来ました。「食材」として意味を持ち始めたのは最近の事です。香辛料として広まったのは第二次大戦が終わった後ですね。

なぜ日本料理で使われることが殆どなかったのか。
大きな理由はふたつでしょう。

★肉食の習慣がなかった
ニンニクが最大の効果を発揮するのは肉料理です。
肉の臭みとり・香りづけとして胡椒に匹敵します。

★仏教の影響
和食と仏教は切れない関係があります。
思想背景も含めて日本料理は計り知れない影響を受けています。

にんにくの語源は仏教の「忍辱」にあると云われます。
耐え忍ぶことですな。

ニンニクは太古から強壮作用があると伝えらる食べ物。
古代エジプトではピラミッド建設労働者への「栄養剤」
アレキサンダー大王の軍隊
ギリシャとローマの兵士
十字軍の遠征隊
こうした人々が常食してきたと云う。

仏教徒には大きなタブーがあります。
それは「煩悩」
世俗的な欲望である淫欲です。

日本に伝わった仏教は禅宗などを通してさらに禁欲的になり、戒律の厳しさを増しています。煩悩につながるものを断つ。つまり食欲さえ卑しいものの様になった感がある。慎ましい食事。現在の日本料理の原点に深く関与した利休などにもこの思想がみられます。

こうした流れの中で「滋養強壮」とされる食べ物はどうなるか、です。

肉食禁と同じく葷(くん=ネギ科の臭気野菜)も食が禁じられます。
※禁葷食 五葷(ニンニク、ネギ、ラッキョウ、アサツキ、ニラ)食の禁止。

つまり「なまぐさ」の一種ですな。
不許葷肉入山門
(葷肉の山門に入るを許さず)

ニンニクの効用

昔から云われる「滋養強壮」は少し誇大であると思います。
まだ研究中であると考えた方がいいでしょう。
ただ糖質が多いので疲労回復や栄養補給には良いでしょう。
注目すべきはビタミンB1の吸収を助けるアリシンです。
そして「殺菌力」。これはある程度証明されている。
ある種の癌にも効果が期待されますが、これもまだ研究中。

ニンニクの臭い

仏教がどうこういう問題ではなく「悪臭」が問題。
仏教の教えがどうであれ、人々はそんなモン忠実に守りません。
強烈な臭いさえなきゃ他のネギ類同様もっと広く食べられていたでしょう。

おいらもニンニクが好きです。
ニンニク入り味噌汁

嫌なのは強烈すぎる臭い。

ネギの仲間は硫化アリルという成分が臭いを発します。
だがニンニクだけ特別に臭いのはなぜか。
あの強烈な臭いはアリシンによるものです。
細胞が壊れる時にアリインとアリナーゼが反応してアリシンになります。

細かく切るほど臭いが強くなり(細胞の破壊度合い)
すりおろせば余計強烈になるという訳です。

アリシンを抑えた「無臭ニンニク」も登場。
だが、ニンニクの殺菌作用はアリシンあればこそ。

硫化アリルそのものが薬効成分であり、悩ましい話ですが、
加熱したり牛乳で皮膜すればある程度臭いをおさえられます。

ニンニクの種類

ニンニクは秋植えで翌年の梅雨前に収穫します。
新モノは5月から8月くらいに出回り、これが一応「旬」
まぁ1年中出てますけどね。なので「一応」

代表的な産地は青森と香川。
九州・沖縄で栽培される【壱州早生】もあり、
これは1月~3月に収穫が可能です。
しかし出回っているニンニクの大半は【ホワイト六片】
青森産の大粒が上物です。

でもまあ店頭にあるニンニクの半分以上は中国産でしょうな。
中国産は世界のニンニクの八割以上ですから。

加熱が過ぎれば味気ない、
だが生では刺激が強すぎる(実際に胃を荒らす事もあります)
だが美味いので時々食べたくなる。
なんとも困った野郎ですが、
折衝案として「醤油漬け」はどうでしょうかね。


ニンニク醤油漬けの作り方

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