ある日のこと。
白衣姿のまんま、友人のレストラン裏口から訪問。
いつもの事ですが和食の板場とは異なる独特の匂いがする厨房。
暇な時間帯を狙った訪問ですが、オーナシェフの友は仕事中。
シェフとは小学校から一緒の長い付き合いです。
こうなるともう互いに「遠慮会釈」ってものは皆無。
互いに東京生まれですから言葉が汚いのなんの。
真面目な人が会話を聞いたら青くなるかも知れません。
芋なんかをペティで剥いてるシェフへ、
「何で仕事してんの?おまえ」
それが挨拶代わりです(笑)
ヤロウは、
「うるせえな。なんだよ。
喰う物はないぞ。
包丁盗んで行くなよ」
「誰がおめぇん家の安もん包丁とるかよ。アホか」
そんな調子で用件に入ります。
「ところで」
「何?」
「おまえの店ベジブロスに何か隠し味を使ってるって噂がある」
「ベジブロス?」
「ああ」
「それがどうした?。レシピは教えんぞ」
「ケチ」
「ケチって。おまえは和食屋じゃねぇか。関係ないだろが」
「わかった。じゃあその野菜料理食わせろ。金は払わんけど」
「金払えよ、トンチキ。なんだよお前は」
で、渋々ながらも料理を作ってくれました。
盛り付けは相変わらず見事で、味も深い。
と言うか、素材の味を完璧に近く引き出しております。
料金を払い、再び厨房へ。
「うまかったよ。誰が作ったの?あの料理」
「ふざけんな。
それで、隠し味は分かった?」
「オリーブ油に細工してるな。それとニンニク。何か特別な奴だ」
「詳しく教えろよ。ありゃ何だ?」
「ふ~ん、イイ線だが、教えるには条件がある」
「条件ってなんだよ、タコ。もったいぶるなって」
「亀戸大根が欲しい」
「欲しけりゃ買えよ(笑)
って言うかそりゃ無理だ。あきらめろ」
「おまえ漬物に使ってるじゃないか。俺にもよこせ」
「馬鹿。そりゃタマタマだよ。めったに買えないっての」
「どこかで売ってないのか?」
「葛飾元気野菜直売所に問い合せてみな。たぶん無いが。」
「もう一度ちゃんと食べてみたい。お前の店で食わしてくれよ」
「だから、そんなモンいつ入るか分かんねぇって」
「北口の『亀戸升本』に行って食べりゃいいじゃないか。
「あそこは『あさり鍋』もやってるし」
「『亀戸大根あさり鍋』かぁ。
名前は知ってるけど食ったことないんだよね」
「なんでぇ。
それでも江戸前の料理人かよ、おまえは」
「江戸前じゃなくて、俺はイタメシ屋なの」
※ベジブロス
旬野菜を煮込んだ野菜出汁(スープストック)
玉ねぎ・セロリなどをオリーブ油でニンニクと炒め、他の旬野菜をたっぷり加えて煮込む。
塩少々で仕上げる。
全ての野菜料理のベースになるが、今回食べた料理は「サルサ・ディ・ポモドーロ」を加味してイタリア風を強調した仕上げだった。