アンコウ七つ道具《鰓の料理》  

アンコウ七つ道具《エラ》

せっかく帰省していた娘たちもそろそろ戻るってんで、新年会を兼ねたパーティをやりました。またぞろ日本から逃亡するってわけで、なんとも寂しいかぎりですが、仕方のないこって。今の日本には彼女等を引き止める魅力がないってことなんでしょう。

清流は滔滔と流れるもの。
時に静かに、時には激しく。しかし止まらずに流れるもの。
流れが塞き止められ水が澱むと透明度を失い、いつしか腐臭を放つ。

今の日本はまさにこの淀みのようなものです。
沈殿した澱は頑なに変化を受け入れない。

小さな世界に固着してしまい本流の流れを見失う。
狭い縄張りを死守し、奪い合い、その他は見えない。
やがて濁り腐っていく。
そのような場所に活力ある若者が入り込む余地は無い。
また、入り込むべきではない。

若者の力を受け入れられない国にどんな未来があるというのか。
おいらにゃ魚の住めない廃墟のような街が見えたり致します。

まあどちらにしろおいら達ゃ日本で生まれ育った。
この国で死んで行くしかない。国がどうなろうとね。

次の世代がこの国をどう変えていくのか予測するのは難しい。
現段階では正直言って期待値は低い。
だが先の予想は不可能な事です。
サイコロの目がどう出るか誰にも分かりゃしません。

世界を回遊して故郷の川に戻る回遊魚に望みを託すとしましょう。
大海で泳ぎ、逞しく成長した人々に一縷の望みをね。

 

スポンサーリンク

アンコウ

さて、大海を泳ぐのを嫌い、澱んだ場所から動かず、ただひたすらエサとなる生物が己の口に迷い込んで来る事を期待して生きる魚がおります。回遊魚とは反対の魚というわけです。

泳ぎに適さぬ体型であり、スマートな他の魚類を追うのが不可能なゆえに、動くのをあきらめ、ますます醜さを増した。ここまで言っちゃ可哀想だが、そうとしか思えぬブサイクさ。

外には「釣り竿」を突き出し、外見は「口だけ」に見える。内臓と言えば胃袋と肝だけであとはぐにゃぐにゃして何がなにやら得体が知れぬ。軟骨の背骨がそれに拍車をかけ、まったくもって醜魚。しかも産卵期を迎えると小さなオスは大きなメスに食われてしまう事もあるという情けない生態。

しかしいくら怠け者と言えど、そうそう魚が簡単に釣れるわけもなく、時には泳いで海面に出ることもあるそうです。なんと胃袋から海鳥の「カモメ」が出てきた事もあるとか。これは北米東岸にあるステートン島(ニューヨーク市リッチモンドのスタテンアイランドの事かな?)での出来事。ニシアンコウでしょうね。

国内の記録によれば1936年に東両国の魚屋が築地で仕入れた八貫五百匁(約35キロ)のアンコウの胃袋からクチブトウミガラスが出てきたと言いますが、この海鳥は魚を追って潜水しますので、あるいは海底で待ちうけて「釣った」のかも知れませんが、なにしろアンコウが棲息するのは海底なので、やはり腹が減って狩りに出かけたのでしょう。

先ほどから「釣った」と書いていますが、アンコウは上顎の上部に釣竿としか表現出来ないアンテナ状の突起を持ち、これをゆらゆら動かし魚を集めてエサにしております。擬餌針の働きをもっているんですね。体を海底の砂泥に埋めてこの竿だけを出し、360度回転させる事ができるというからあきれてしまいます(笑)
「鮟鱇の餌待ち」
辛抱強さ(?)に感心するやら呆れるやら。

※鮟鱇の餌待ち
鮟鱇の汐待ちともいう言葉もあり、これはうまく当てると胃袋に他の魚が沢山入っていて損はない事から。

※発光する突起を持つチョウチンアンコウは食用にするアンコウと別種

日本近海には約70種のアンコウが分布しているそうですが、我々が食用にするアンコウは限られた種のみです。アンコウ科の「アンコウ(クツアンコウ)」と「キアンコウ(ホンアンコウ)」
他にフサアンコウ科の「ミドリフサアンコウ」というのがいますが、やはり一般には前記の二種類が本筋です。海外では「アングラー」と呼ばれる大型種が食用になってます。北米に分布する「ニシアンコウ」と「アメリカアンコウ」です。

しかし醜魚は美味いもの。
夏がオコゼなら冬はアンコウでしょう。
両者ともブッサイクだが味は折り紙つき。

アンコウは軟骨だらけでぐにゃぐにゃしており、表面から粘液(ノロ)が出て捌くのはなかなか大変。なので、下顎に大きなカギを掛けてぶら下げ、口から水を五升ばかり入れて胃袋を膨らませこれを重石として安定させ、空中において捌く「吊るし切り」にします。

まず口下の部分から皮を剥ぎ取り、胸鰭を切り落とし、内臓を出し、鰓と柳肉を切り取り、三枚におろして身を剥しってな段取りです。

でも実際には、まな板で普通に捌く事が多いですね。
おいら達はめったに吊るし切りをする事はありません。
馬鹿でかい鮟鱇なら吊るしますけどね。
一般的なサイズならまな板でちゃっちゃっと捌いてます。
あんこうサバキ

七宝

捌いたアンコウの食用部分を「七つ道具」と称します。
「宝袋」は胃袋だけじゃありません。

【キモ】 肝臓ですな。アンキモです
【カワ】 コラーゲン豊富な皮。とも酢で
【水袋】 胃袋です
【ヌノ】 卵巣。別名「ふんどし」
【エラ】 鰓
【ヒレ】 鰭
【身】 身肉。だい身、柳身とも呼ぶ場合あり

以上七箇所を称して「鮟鱇の七つ道具」といいます。
他に尾びれを含む尾の身を【とも】
頬肉(顎肉含む)を【柳肉】
頬肉は柳の葉に似た形から(なので身肉も柳肉と呼ぶ場合あり)、尾肉のトモは漁船の後部名称からでしょうか(ヒレをトモと呼ぶケースもあるようです)、いずれにしろ命名は漁師達でしょう。

骨の硬い部分、鋭い歯、目玉と腸以外は全部食べられるのです。
(目玉と腸は不可という訳ではなくあえて食用にしない)

「鮟鱇のとも酢」と「鮟鱇のとも和え」は非常に名高くなりました。
漁師伝統の作り方を書いておきましょう。

とも酢

キモを弱火でカラ炒りしてほぐす
すり鉢へ移し、味噌、砂糖、酢を加え当たる
皮と身を一口大に切ってゆでた後、冷蔵庫で一晩。
煮凝りにしたものをこの「とも酢」で食べるのが漁師流です。

とも和え

やはりキモをフライパンでカラ炒りし、野菜類を加えるもの

※和食での「とも酢」「とも和え」は、丁寧にアンキモを下ごしらえし、蒸して裏ごしにかけて調味料と合わせます。「とも」とはもちろん同一の魚貝の内臓と身などを合わせるという意味。主に肝と身肉を合わせる調理法に「とも」を付けます。

どぶ汁

ついでに漁師本来の「どぶ汁」の作り方を。
一般には水か昆布出しで作り味噌で仕上げるものですが、元祖の「沖料理」は一味違う。
鍋にキモを入れてカラ炒りし、そこに大根を放り入れます。
次に皮とアラを加える
大根に火が入ってきたら他の部分も加える
最後に味噌を加えて完成。
水は一滴も使いません。
アンコウの身と大根から出る水分だけ。

実はアンコウっていう魚は今の釣り師言葉でいうなら「外道」もいとこでして、漁師はこれが釣れたら捨てていた時期があるそうです。船上での「まかない」にこのどぶ汁ばかり食わされるので、船頭に見つからない様に蹴っ飛ばして海に放り捨てていたと聞きます。

市場に持って行ってもセリで値が付かず、どうしょうもない魚なので船で食うしかないが、貴重な水を使うのはもったいない。このあたりから「水なしのドブ汁」が出来たのかも知れませんが、逆に美味い料理になったって按配でしょうけども、毎日こればかりじゃ捨てたくもなるでしょう。高級魚となった現在では考えられん話ですね。

身肉は水分がほとんどで多少の栄養はありますものの特に見るべきものはありませんが、肝には脂溶性ビタミンが非常に沢山含まれています。色々なビタミンを含有してますけどもずば抜けて多いのはビタミンA。また、多価不飽和脂肪酸も多いのにも注目すべきでしょう。

パーティ用に北茨城からアンコウを取り寄せました。
刺身とか寿司とか、肉類をナニしたモンが主体の料理ばかりじゃね。

やっぱり鍋でなきゃ輪(和)が締まりません。
あん肝もどっさり出てきました。


あん肝の作り方

七つ道具はすべて鍋にぶちこんで食べられますし、ほほ肉(柳肉)は刺身にもなります。もちろんエラも食べられます。が、正直いって鍋にあるエラに手を出す者は少ない。やはり生臭さが残るからですし、形もね。

そこで以前紹介した「ブリのエラ、〈ぶりかげ〉」よろしく別の料理に。臭みが残るのは「血」のせいです。徹底的に血を除いて綺麗にするのがポイント。
ブリのエラ料理

こうすると上質の鶏軟骨の食感であり、臭みはゼロです。

Comment
スポンサーリンク








Copyright © 2017 手前板前. All Rights Reserved.