ブリのエラを料理する


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鰤鰓と河豚刺

てっさ(河豚の刺身)は和食の華。
皿の模様が透けて見えるほど薄く刺身を引く「ふぐ作り」
数十を数える刺身技法の中で最も難易度が高い一つです。

ふぐ刺 料理の華

河豚の身(筋肉)は脂肪が限りなくゼロに近い低脂肪。そのかわりたんぱく質が豊富で、そのなかにイノシン酸、リジン、グリシンなど旨味成分を含むアミノ酸が多い。中でも重要なのはIMP(イノシン酸)ですね。なので、独特の旨味を持つ刺身になります。

しかしその筋肉組織は結合が非常に強い。
人間の歯では噛み切れないほどに硬いのです。
だから紙の様に薄く切る「ふぐ作り」という切り方をします。

したがって水槽から出したばかりの「河豚の活き作り」は馬鹿げています。

「活」とは死後硬直前の身が活きてる状態。
この状態だと当然筋肉組織は極めて硬く結合したまま。
そして旨味成分のアミノ酸はまるで分解していません。
IMPは死後硬直の後に増加するのです。
これは河豚だけでなく全部の魚にあてはまります。

これでは刺身にする意味も、結局はゴムを食べてる様なものなんで「薄く引く」意味もありません。昔流行った「生簀料理」でピチピチした活け作りを「美味い、美味い」と言いながら食べてる人達の姿を見て、暗澹たる気持になったものです。そんなモン美味い訳がないからです。

活魚を締めておろした魚は布巾で巻いて寝かせる必要があります。その寝かせ時間は様々な条件で違ってきます。

河豚の場合だと「キロあたり12時間」が目安でしょう。
つまり美味そうな2キロサイズだと24時間。

諸条件で変化しますが、半日は寝かさないと旨味が出ないという事。
河豚と言ってもかなり種類がありまして、普通使っている「とらふぐ」の他に、「まふぐ」、「めふぐ」、「からす」、「さばふぐ」、「あかめふぐ」、「さんさいふぐ」、「しまふぐ」、「しょうさいふぐ」、「ひがんふぐ」、「よりとふぐ」、「ごまふぐ」、「かなふぐ」、「こもんふぐ」、「なしふぐ」、「くさふぐ」、「はこふぐ」、「きたまくら」、「はりせんぼん」など20を超える種類のふぐが流通しています。

しかし料理屋が使用するふぐは殆ど「とらふぐ」です。
いうまでもなく、河豚の中で一番美味とされているからです。
他の河豚同様に韓国や中国からも輸入されてるんですが、中国からの輸入物に妙な「自称とらふぐ」が紛れ込んでいるのは困ったもんですね。

河豚を捌いて刺身にするには「河豚調理師」の免許が必要で、この免許を持つ板前は重宝がられますので、就職でも有利になります。そして刺し場を任され、高級な虎河豚の刺身を難しい「河豚造り」で引く。まあ板前としては「華」と言えるでしょう。

河豚の解体

その一方で「ゴミ」の様な食材があります。

板場には「わた樽」という物がありましてね、まあゴミ箱ですな。
生物専用、魚のアラ専用のゴミ箱です。
(フグのワタは毒があるので専用のワタ箱に捨てます)

鰤えら料理 【ぶりかげ】

先日の事ですが、ふとワタ箱を見ると目に焼きつくほど鮮烈な朱色のものが捨ててあります。真っ赤な色をした大きな鶏の鶏冠の様なもの。「ブリのエラ」です。

12月の献立に「氷見の寒ぶり」の料理を入れております。
ですからブリが入荷します。

近年は養殖ブリの品質が極めて向上。
(筏を沖に出す養殖方法が成功してるからです。エサの改良もあり、昔のような奇形ハマチを見る事も最近はなくなりました。さらにハマチで出荷せずブリまで成長させて売り出すものも身質が上っています)

なので、養殖鰤の良い品の値が上がり、高値だった天然ブリの値段が崩れるという意外で喜ばしい現象が起きる事があります。
※今は日常。ただし氷見などの高級天然鰤は例外
ブリとハマチ

寒ぶりは非常に脂がのっておりますので、人の好みにもよりましょうが、おいらは生食よりも加熱調理にした方が旨いと思っている魚です。

食べ応えのある身は当たり前として、皮、心臓、白子に卵、胃袋、腸はいかにも美味そうだし、料理に使えます。骨はあら煮にすればよいし、頭はブリ大根の逸品になります。
ブリ大根

ですが大人気の「ブリカマ」の奥に隠れているエラはさすがに食べる気がしない。エラってのは「櫛」を何本も重ねたようなもんでとても食用になるとは思えない。血だらけだし、細菌もおそらく一番多いのではないか。フィルターですからね魚の。

まあ忙しい若い衆がタルにポイ捨てするのは当然でしょうな。

おいらは黙ってゴミ箱からエラを取り出しました。

ハサミでばらして磨き上げます。

酒と醤油などの液を浸透させ

このまま数ヶ月間塩樽に漬け込みます。
能登で習った「ぶりかげ」を作るのです。

熟成した「ぶりかげ」を塩抜きして味噌焼きに、
あるいは糠を加えた味噌たたきに。

石川・富山の人達の魚に対する知恵には本当に感心します。「巻きぶり」は八寸によく使うし、普通に酒肴としても旨い。皮や胃袋の鱠にぶり茶漬け。

「なんだよ嫌味ったらしい親父だな。ったく」
そう思われても仕方がありませんけども、幸いにしてウチにはそのような「のび太」はいないようです。ドラエモンばかりのようですな(それはそれで暑苦しいですが。丸々してねぇでもう少し痩せやがれ 笑)

里芋をするする六方に剥くのは上手だが絹かつぎは出来ない。
活け作りが出来ても魚の干し方、塩漬けの仕方が分からない。
フグ刺しを引けても平作りの刺し身をぺったんこに盛る。
そういう板前になって欲しくないんですよ。

技術と同時に「まともな人間としての視点」を持つ。
そんな料理人になってもらいたいのです。
「小せぇ人間」になってしまうのは親として寂しい。

てっさを引ける庖丁技術を会得しても、けして慢心せずにゴミバコに捨てられてるクズから料理の2~3品を作れる。そんな料理人。そんな滋味のある人間になってもらいたい。

イブの夜に出すのは奇妙なもんですが、肴としてぶりかげの料理を出して若い衆と一杯やってみますかね。

なるべく早く切り上げて、首を長くして「食い物」を待ってるカミサン(笑)の所にも少し持って帰るとします。

これは短期熟成なので油を使っています。

さて、今日はクリスマスイブですね。
すぐに正月です。
これから成人式が終わるまでは何かと忙しくなります。

今の日本にはこの時期になると「心が沈む」方が多いとか。
さもありなん。一家団欒とは程遠い暮らしをしてる人は増えるばかりで減りませんからね。世間の喧騒が大きくなればなる程孤独感が強まるのでしょう。
今日も誰との「絆」も感じる事ができず、一人で淋しい夜を送る方も沢山いることでしょう。正直に言ってそのような人になぐさめる言葉など何も無い。どんな言葉も無意味だからです。

一つだけ言えるのは「あきらめてはいけない」ってこと。
折れた心で日々を送っていたら「変化」をキャッチできません。

人生はあっという間の短さですが、実に色々な事が起きる。
凡庸な日々の繰り返しの中でいつか必ず「変化」が訪れます。

だがその変化に対応できるかどうかは自分次第。
だから肝心なのは、
「希望を失わずに変化の日に備える」
なのです。

あなたにとって2011年がそんな変化の年でありますように。
魚山人



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