包丁の輝きに写る切子  

寒露の驟雨

 

女心と秋の空
昔の人は巧いこと言うもんですなぁ。

秋晴れかと思いきや突然降り出し、いつの間にかやむ。
まことにもって秋の天気はわけがわかりません。

まあ、一雨ごとに露が冷たい霜に近づく寒露の季節だって事でしょうかね。

外は秋の雨。
でも板前は板前の仕事をするだけです。

外回りしたり、献立書いたり、料理盛ったり、お客さんにツラを見せたり、仕込み手伝ったり、教えたり、洗い場のおばちゃんと世間話したり、帳場でパソコンONにして帳面つけたり、あれやコレや。

手が空いたら、包丁研いだり、ドスで竹を削って鉄砲串とか盛台を作ってたり。

板前親父の日常。

早朝に裸足で歩きまわって体を鍛えてますんで血行は悪くないし、まだ筋肉や筋は柔らかい。でも首の骨の支障は20年変化しませんから、ここから各所に悪影響を及ぼし、一日が終わりデスクの前に腰掛けると背中がキリリと痛みます。

痛みを無視してパソコンをつけると、デスクトップの画面は「世界地図」
まだ行った事のない地域が沢山目に付く。

心のなかで重い溜息をひとつ。「あ~トンズラしてぇ」

「はやく行かなきゃ、それこそ爺になって足腰が立たなくならぁ」

まだ老けこむには早いので、セッカチにもほどがありますが(笑)



そろそろ晩秋。

移ろいの早さは女心だけじゃありません。
衣替えも忙しい。

器も衣替えしなきゃいけません。

おおまかに言うと、「石もの」から「土もの」に変えていくという事です。

どっしり厚みがあり、暖かく落ち着いた陶器の季節ですよ。

青白磁、硝子器、色絵。それが染付へ。
そしてこの季節は焼き締めとか素地ものが合います。
色絵にしても「鉄絵」とかね。

「このあいだ九州で見つけた秋草刻紋の八頭鉢をそろそろ出すか」
ってな感じですね。

ちょっとした料理には「黄瀬戸瓦型平鉢」を使いたい。

この季節、おいらの好みは「渋紙手」が多いです。

珍しい木賊紋様の吸物椀なども使う時期。
「木賊刈る」秋ですから。

磁器は手入れして仕舞ったり。

ある種の薬品をかけると脂が浮いてきますので、

仕舞う前にこの脂を除去しないと見込みもへったくれもありません。

口縁や高台の欠けもチェック。これは高台が欠けてますね。

自分で修繕するか、修理に出すか考えます。
それは器への愛着度で決まります。

※先ほどから渋紙手とか木賊紋様とか、器に興味のない人には意味不明の言葉が出ておりますが、「専門用語排除宣言」をした魚山人サイトとしましては、こうした和食器の知識を素人さんが読んでも理解できるコンテンツを近いうちに「HP手前板前」で作る予定です。乞うご期待を。(もし作れなかったらゴメンサイ ~_~;)
※とりあえず公開 和食器の基本

友と秋の雨

1980年代の後半。
ちょうど今くらいの時節で雨ばかり降っていた年。
まさに「寒露」の時期に降る「驟雨」という感じが続く秋。
おいらは大事な友人を失いました。

職人の親父さんを持つ男でしたから本人も職人を目指しておりました。

「有職でも使ってもらえる品を作る職人になりたい」
優しい性格だが芯の強い野郎だった友達は、よくそんな事を言ってたもんです。

結局いろいろあってそいつは家業ではなく、江戸切子を学ぶことになります。

「最高の魚子(ななこ)を造れる様になるよ」
「それをお前に贈るから店で使ってくれ」

それを楽しみに待っておりましたが、
そいつは職人として一人前になる前に病死。
まだ20代でした。

伝統工芸の技を身につけるには時間がかかります。
神様はなんでこいつに時間をくれなかったのか。そう感じました。

ガキの頃、二人共同じ女の子を好きになった時、そいつはおいらに気付かれないように身を引きました。おいらを傷つけたくなかったのでしょう。それに気づいたのは1年も経ってからです。

「馬鹿だなおめぇは」
「お前のほうこそ」
そう言って笑ったのは二十歳を超えてからです。


そいつが急死してから数年間は江戸切子を見るのも嫌でした。
やりきれない怒りと悲しみの感情、それを何処に持っていけばいいか分からなかったからでしょう。

(今は特別な酒だけ切子で飲んでいます)
板前、包丁、日本人

人の人生は、世の中を、この社会を泳ぎ続けるしか他にありません。
遠泳には体力と強い精神力が必要です。疲労が蓄積して疲れもしますけども、人と接点を持つことで幸せを味わうことも出来ます。ロクでもない事が多いが、泳いでさえいれば良い事だって稀にあるのです。

しかしそれは「生きていれば」の話なんです。
死には何もありません。無です。

苦労を乗り越える精神、そして達成感。
人を愛し人に愛されること。

それは宗教でも無理。神や仏とは無縁です。
実際に毎日を生きぬく他ないのですよ。


おいらは今日まで生きてこれた事を感謝します。
職人にもなれたし、包丁の研ぎ方も身につけました。

包丁を見て感じます。
「この輝きは何かに似てるな」とね。

あのやろうが造った最高の『江戸切子』の輝き。

おいらにはそう見えるんですよ。



これから暮れゆく年の瀬に向かい寒さが日増しに厳しくなりましょう。
みなさまも、どうか身体にだけは気をつけて下さいますように。

2011年10月07日

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