鮨職人と包丁  

鮨職人と包丁

これは横浜の鮨職人『鯔次郎』さんの包丁。
細身に誂えてもらった出刃包丁ですね。

四十を超えても、まだまだ「良い仕事がしたい」とう気持ち。
その気持ちが、この包丁を見るだけではっきりと分かります。

包丁制作は関西の包丁屋、●山さん。
ここは相変わらず良い仕事をします。
調理師にだけ包丁を販売している専門業者ですが、最近はやはり昔と違い厳しくなっていると聞きます。長く長く続くしつっこいデフレが、とうとう料理人の手間賃さえも大幅に下げてしまった。まぁ包丁に金を使ってられねぇという事でしょう。良い包丁は売れない時代になった。

なので「脱却」を試みて色々と新しい商品を開発したい意向だそうだが、先代のオヤジが頑固でもって「いままで通り包丁一本でいく」と首を縦に振らない。ま、そういった感じ。しかしこの話を聞いたのもだいぶ前のこと・・・

兎も角、きちんとした包丁を造る。

錆びくれた出刃や牛刀で魚を捌くのが、今って時代。
それがもう当たり前なんでしょう。

それでも、丸の魚をおろせるだけで恵まれている方かも。「フィレ」とか、「切られてあるネタ」しか触れない寿司従業員も多いですからね。

どうせ「魚らしい魚」は獲り尽くして、絶滅を待つ状態。それでも「グルメ」とやらの需要で、密漁して資源枯渇を進行させている現状。

まっとうな魚は見かけなくなりました。
なにやら得体のしれないモンが、築地にまで並ぶご時世。

そんな世の中だからこそ、鯔さんみたいな職人が逆に光る。
業界の売上高トップ5を占める「回転寿司派」でも、ムキになって大間のホンマを競り落としてくる「銀座派」でもない。 そういった「主流」ではないが、なげやりな仕事をする気はない。

そこに一筋の光明を見る気がするんです。


 

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意外だと思うかも知れませんが、日本は05年~07年くらい(つまりリーマンショックの前)に、「好景気」で沸いたことがあります。誰もそんな実感など無いとは思いますけども、企業業績が過去最高益を更新していた時期なんですよ。

しかし、そんな企業バブルの恩恵を受けた給料取りなど極めて稀だったでしょう。なぜなら賃金は全然上がらなかったからです。

そもそも業績が上がった大きな要因は「リストラ」。正規社員のかわりに、賃金を上げる必要のない非正規が多くなっていました。そこに中国需要が重なって日本企業の財布は膨らんでいたんです。

だが企業は用心深くなっており、儲けを内部留保に。あとは配当や役員の高額報酬にあてる。一般社員への還元どころか、正社員を減らし教育もしなくなっていた。

ようするに「労働分配率」が歪んでしまっていたってことです。
《労働分配率=人件費÷付加価値額×100》
これが労働分配率の計算式。

付加価値は売上から人件費を除いた諸原価を差っ引いたもの。
一人当たりの労働生産性を算出するものさしにもなります。
一人が生み出す付加価値が、適正な賃金を決める。

景気がよい時期には分母が大きなります(付加価値拡大)
なので労働分配率は下がる。
景気が悪化して成長率が下がると企業の付加価値も低下。
しかし雇用は維持しないといけないので労働分配率は上がる。

この原理が働いていなかったのが、あの時期です。
「労働生産性に見合う賃金を払ってなかった」
05年~07年に、企業が業績の回復を賃金上昇の形で分配できていれば、ここまでデフレが進行することはなかったのですよ。

しかしそれは「大企業」のお話です。
日本のサラリーマンの7割は中小企業に所属。
大手の62~63%なんていう適性労働分配率は厳しい。
利益は少なく、付加価値は低い。
なのでどうしても労働分配率は高い。

長々と何をわけの分からねぇ事を書いているのかと言うとね、その中小の中でも極めて労働分配率の高い業種が「すし業界」だってことです。

原材料費が極めて高く、付加価値を圧迫。
まぐろ屋に銭を払うために商売してるようなもの(←大げさ 笑)

そこへもって来て、すし職人の賃金は安くない。
なので小型のすし店は減るばかりで、合理化を進めた回転大手が業界を席巻している状態になっているわけですな。

デフレと「空洞化」は同時進行し、自民政権になっても改善しません。
これはもう絶対ですね。
どんだけ金をばらまいても、民間人のところには降ってこない。
ぜんぶ途中で「消える」でしょうな。

それは「構造」のせいですが、その構造のしくみは偉い先生の書いたものでもお読みください。おいらは頭が悪いんで説明できません。というか、する気がありません。ピンハネでしかないものを、難しい経済用語に変換したり、オブラートに包んでムニャムニャにする芸当は無理。

ただ、根源的な原因を一言だけ書いておきます。
「日本人のマインドが、日本という国から離れている」からですよ。
もう完全に心が離れてる。日本からね。
だから「どうでもいい」。自分以外は。

中国共産党の幹部と同じでね、できるのなら、資産を海外に移しておきたい。それがホンネなんですよ。政府・日銀が金をばら撒けば、そのカネはほとんどピンハネされて海外に出ていくってこと。それが出来る立場の者は、どんどん実行している最中です。

世の中の潮流は、そんなふうに流れています。
テレビをつければ、空虚な馬鹿笑いと現実感のないドラマ。
ネットには低俗な妬みや蔑みや憎悪が渦巻く。

「思考能力」というものが絶滅寸前。近海魚みたいにね。
正面から冷静に日本という国を論ずる気配はゼロに近い。

地震が起きても海外逃亡できない自民党支持者さんの哀れさってとこ。

※追記
{ 信じて貰えるかどうか、それは分かりませんが、この記事を仕上げた約2時間後に地震がありました。前回の記事を多少引っ張った形での上の文言であり、地震を受けて書いたものではありません。いったん記事をUPした後、東北の縁者などに連絡して無事を確認。その後しばらく考えましたが、そのままにして記事内容は変えないことにします。やはり福イチ4号機のプールが一番気になりますが、東電や当局が本当の事を発表するとは思えないので、どうにもなりません。人々が正常な頭に戻る前に再び「地竜」が暴れない事を八百万の神々に祈るのみです }


だからこそ鯔さんの包丁が、おいらには眩しい。
深夜まで働きながら、3人の子供を育てる毎日。
疲れていても包丁を輝かせておきたい気持ちを失くさない。

舎利の面倒もみれば出前にも出る。
ギョクを巻いて、河岸があがれば魚や貝を捌く。
お客さんに愛想を振りまき、同時に腕を振るう。

晒されてりゃ、身体の芯が疲れ、胃も痛くなるもんですよ。
ストレスがたまります。
だが、ありがたいことに掲示板に行ってストレスを発散するのでなく、おいらの所に長いコメントを書いてくれる。よけいに疲れる筈なんですが、なぜかそれをやってくれるんですな。(ま、たまには「*ちゃんねる」と同じような感覚で書いてきて削除の刑になったりもしますが 笑)


「どんな指先で鮨を握ってるんだろう」
時々そんな事を考えます。

おいらが行く中央区界隈の鮨屋に立つアンちゃん達。
この中に「鯔次郎」と似た指の者がいるかも知れない、とかね。

なんで「指先」なのか。
それはおいら自身もすし職人だからですよ。


●人を語れば世を語る

「人を語れば世を語る」
「語り尽くしてみるがいいさ」

これは、吉田拓郎の『知識』からの引用です。

こう続きます。

【自由を語るな 不自由な顔で】

【言葉をみんな喰い荒らし 知識のみがまかり通る】

【理屈ばかりをぶらさげて 首が飛んでも 血も出まい】

拓郎は40年ほど前から「21世紀の今」が直感的に見えてたんでしょう。感の鋭い天才的な詩人ですな。これを20代で言えるとはね。

ちゃんと「血が出る」人間。
そんな男がまだ残っている。
この国のどこかで、鮨を握ってたりする。
その「指」はまだ見たことがありませんけどね。

おいらも、包丁を錆びさせるわけにはいきませんな。


2012年12月07日

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