一番切れる刃物  

一番切れる刃物

世界一切れる包丁は何

 

青紙スーパーで極限まで薄い本焼が仮に出来たとすれば、それは多分世界一切れる包丁になるでしょう。しかしすぐに「ポキーン」と折れてしまうでしょうし、使い物にはならないのも確かです。それにそんなモンは作れない。青紙でなくても切れる刃物を作りたければカーボンの含有率を増やせばよいだけの話です。いくらでも切れる刃物が作れます。いっそカーボンのみで作ればいいが、それを何に使うって話ですな。

要するに用途、つかいみちの問題なんです。
鉄材とか石材とか、でかい物を切断するには高温高圧、各種ビームやガスやウォータージェットを使えばいい。多分そんなものが世界一切れる道具でしょう。

でも、そんなものは刃物ではなく、私らにはまったく関係がない。

小耳にはさんだウワサ(ガセ臭い)によれば、某国の暗殺部隊が、武装解除されても敵に気づかれないほどミクロな「首切断用の武器」として、CNT(Carbon nanotube)の技術を応用した目に見えないワイヤ(切断用)を携帯しているとか。その切れ味たるや・・・・スパッと・・・
もちろんそんなモンはダメだしギロチンもダメだし、スペシウム光線は論外だし、セブンの頭にあるノコギリみたいなブーメランみたいな刃物(アイスラッガー)も当然ダメです。
そんなものは無関係もいいとこ(笑)

刃物は切れ味のみではなくバランスだって事です。

硬度】 【靱性】 【耐摩耗性】という、相反する特徴が配合良くバランスしてなきゃいけないし、今はこれに加えて【耐蝕性/耐食性】も求められる時代です。

切れて、ねばりがあり、長切れし、研ぎやすく、錆びない、
です。

言うは易しとはこの事でして、全部互いに反発する磁極の様な性質で、そのバランス組みは永遠のテーマと言えましょう。

硬度を高くすれば切れるが、すると靱性、ねばりが無くなり脆くなる。
炭素鋼は焼き入れ如何で鋭さを増すが(硬度が高まる)脆いし錆びる。
ステンレス鋼は粘りがあるが高い硬度が難しいし加工しにくい。
刃物鋼材は硬度と靱性をどう配分させるかの歴史です。

関連記事:
包丁の切れ味と構造
包丁の硬さと切れ味

硬度の高さ、つまり切れ味においては「日本刀」が抜群でして、以前TVで拳銃の弾丸を両断してしまう場面などがありました。しかしそのぶん耐蝕性、靱性が弱いのでサビやすく折れやすいのです。日本刀は横からの衝撃に極端に脆い。しかし、その鍛造技術は多分世界最高と言えるのでないか。限定的な用途ならばその切れは世界一でしょう。

日本刀は古来のたたら製鉄による【玉鋼】で造られてますが、この流れを継ぐのが炭素鋼【青紙1号】で、やはり良く切れるが、耐蝕性、靱性に問題があります。これに耐久性を持たせるべく開発されたのが青紙スーパーだと言ってよいでしょう。

※青紙スーパー
日立金属の最高級ハイカーボン鋼。
カーボン1.45%・クローム0.47%・モリブデン0.41%・バナジウム0.36%

※青紙1号
日立金属の刃物鋼。
本焼にしやすく(二号)、鍛造も含めて包丁では青紙が最上とされる。 カーボン1.1~1.2%・マンガン0.2~0.3%・クローム0.2%~0.5%・タングステン1.0~1.5%

※玉鋼
カーボン1.0~1.5%という文句なしの最高の刃物鋼材。
日本古来のたたら製鉄で作られるが一時期完全に途絶えたり、その生産量は極めて少なく、今では日本刀専用。

 

世界最高の刃物・ナイフ&包丁

ウイストフ、ゾーリンゲン、ヘンケル、世界の刃物といえばドイツを想起しますが、実は究極のマイスターはアメリカ人です。

まずナイフの【ピート・ガーバー
この人は【ハイス鋼】が得意で、そのハンドメイドのハンティングナイフの切れ味はもう神話のレベル。ガーバーナイフは信じられない「切れ」の伝説を沢山持っています。五寸釘を叩き切って刃こぼれひとつなしと言われたものです。この人のナイフはハンティングやフィッシングの実用性も世界最高クラス。切れだけじゃなく耐久性もあるって証明ですな。

ランドールそしてボブ・ラブレスと、アメリカのカスタムナイフは実用性において高い品質を保ち続けていますが、やはりガーバー(昔の)。

そして包丁なら【ボブ・クレーマー
元料理人のこの人は【ダマスカス鋼】が得意。
およそこの人の包丁以上に人間工学に即した包丁は無く、手に吸い付いてくるしっくり感は、もう魔法の包丁と言ってよいでしょう。切れ味もまるで魔法です。

ボブ・クレーマーのサイト

ガーバーのナイフもボブ・クレーマーの包丁も世界最高の職人技で、今では両方とももちろん新規の購入は不可能です。ご当人が造った物は限りなく入手困難で出物を待つ以外なく、それは刀匠が造った玉鋼包丁以上かも知れません。

※ガーバーもクレーマーも工場生産品は容易に買えますけども(ボブ・クレーマーの大量生産品のブランド名は「旬」。$350前後日本円で3~4万くらい)、当然と言うか別の物です。

ちなみにクレーマーの出物の相場は1500~2000ドル(14~20万円)くらいで高価ではあるものの、この価格は日本では中級の本焼程度。それを考えれば非常に安いとおいらは思います。しかしナカナカ「物」はありませんが。 ※値段は米国本土での最近の価格。おそらく将来的にはこんな価格で買えない。

ボブのデモ動画(板前と本焼包丁)

※ハイス鋼
高速度工具鋼(ハイスピード鋼)
モリブデン系とタングステン系があり、硬度と耐摩耗性は素晴らしい。しかし耐蝕性に欠けサビに弱い。
工作機械のドリルなどの様に高速で切削しても加熱で焼きが戻らないことからハイスピードスチールと呼ばれ、その略が「ハイス」です。刃物鋼材としては密度に欠けるため、以前は使われなかったものが、今は「HAP鋼」など粉末ハイスが可能になった為、これで刃物も造らています。
ちなみに、「研がなくても切れる」というふれ込みの家庭用包丁がありますが、あれは「HAP40」で造られた物で、実際に半年くらいは切れが持続するようです。

※ダマスカス鋼
異種の金属を重ね合わせて作る鍛造鋼。
積層させた金属層が美しい波状の縞模様を見せる。

※O1鋼
日本工業規格SKS-3/31鋼
ランドールが使用している事で有名な鋼材。
刃持ちの良さが特徴。

人気のある刃物鋼材

結局のとこ刃物は現在でも、【硬度】【靱性】【耐摩耗性】【耐食性】、これらのバランスとの戦いです。

今のところ耐蝕性にも優れたバランスの良い刃物鋼材はアメリカの【440C】と日立金属の【ATS-34】が双璧をなしているんじゃないでしょうか。【D2】という鋼材は素晴らしいバランスに成功してますが、耐食性は欠けており錆びやすい。

ATS-34

YSS(ヤスキハガネ)の名声を世界に知らしめた日立金属が世界に誇る鋼材。
錆びにくさも備えた最高のバランスを持つ特殊ステンレス鋼。
クロームを多くし耐蝕性を高め、高炭素鋼カーボンを多くさせ切れ味を良くしている。今現在世界でトップクラスでしょう。 ラブレスもこれを使用しています。
カーボン0.97%・クローム14~14.5%・モリブデン4.0%
※安木ステンレス鋼の代表とも言うべき「銀紙」(銀シリーズ)を下敷きに、硬度を上げるためにモリブデンを加え、ナイフ用特殊鋼として開発。HRC硬度は59度以上で、刃持ちが良く、海外でも大変な人気がある。

440-C/SUS-440C

アメリカで開発された代表的なナイフ鋼材。
特に錆には強い。
カーボン1.0%・クローム17~18%・モリブデン0.45%

SUS基準はUSA規格ですが、愛知製鋼のSUS【440-A】も錆に強い18クローム鋼で、包丁の他ダイバーナイフなんかにも使われます。
※硬度が不足しますので本格的な刃物には使われません。クロームが11%以上の鋼がステンレスですが、SUS304などは同じ18クロームでも柔らかすぎて刃物には向きません。ただ錆に凄く強いので飾りナイフとか、キッチン用品には高級素材です。

V金

カーボンが1.0%で凄い切れ味を持つ13クロームステンレス鋼が武生鋼材の【V金ゴールド】。しかし刃付けは半端ではありませんな。硬くて刃出しは困難をきわめるかも知れません。まぁ異常な硬度を持つ【セラミック材】に比べればマシですが。あれは研げませんからね。ある意味では飛び抜けておりますので(硬度とか)将来どう転ぶか分かりませんが、まだまだプロトタイプという見方をしています。

新しい刃物鋼材

  今から先面白い最近の刃物鋼材

日立金属の開発。

ATS-34を進化させた
ATS-55

炭素鋼と同じ硬度を持つステンレス鋼
ZDP-189

これも炭素鋼同様の硬度で信じられない程長切れする
カウリX

進歩に目をみはる思いがします。
これらを上手く使った刃物が楽しみです。

それにしても日立金属は頑張っていますね。
たたら製鉄の伝統を守る企業だけのことはあります。

ホンネは売れ線ばかりに注力しないで玉鋼の生産流通をどうにかしてくれ・・・って感じですが、(刀鍛冶用に微量生産してるだけで包丁鍛冶には回らない。しかもA級は刀匠すら購入制限がある。※クズ等級は別)まあ大企業だし仕方の無いことなんでしょうかねぇ。

ZDP189

最近ZDP189の評価が鰻登りのようです。
カーボン比率が高く、HRC-66~67で安定させる事ができる極微細粒子で構成された粉末鋼合金鋼のZDP189はやはり切れ味が良いと評判。

刃物は刃先が鋭角であればある程(薄いほど)、よく切れます。しかし、薄ければ薄いほど潰れやすいという結果を招きます。なので、高耐摩耗性・高硬度(潰れにくい)の刃物鋼が選ばれることになるのです。その一方で、硬度が高いと「薄くしづらい」という矛盾を生じる。技術者達が日々努力しているのは、この「矛盾の解消」であると言えるかも知れません。

「ATS-34」は、そういった目標の一つの到達点だったと言っても過言ではないでしょう。だからこそ、世界中の刃物職人に認められたわけです。このATS-34と同時進行で、「さらに一段上」を目指して開発されたのが「ZDP-189」です。

根本から製造法が違う(粉末冶金)手法で脅威の耐摩耗性を実現させ、丈夫なうえに研ぎやすいという仕上がり。一般の炭素鋼を遥かに上回るHRC65という硬さで安定。今のところ、最高クラスと言っていいでしょう。ただ、これは「普通の鋼材」ではないので、非常に高価です。自動車で例えれば「スーパーカーのようなもの」という感じでしょうね。

※ZDP189、カウリXの包丁は堺あたりの著名な包丁屋さんが製造していますが、こうした物は別注になりますから、信頼できる包丁屋さんと相談してください。「酔◯さん」とか「◯山さん」が受注生産していますけども、この二社は信頼できますよ。しっかりとしたZDP189包丁を造ってくれます。

切れ味とは何か

1番肝心な事なんですが、実は答えがありません。

科学的な方法で切れ味を測定する「本多式切れ味試験機」というものがあり、これによって数値化することも可能ではあります。これはかなり信頼性のある数値だと思います。

でもね、「何かを切るのはヒト」
この問題を解決できません。
刃物を扱う人間の腕は千差万別ってことです。

そして、
「カミソリで材木は切れない」
「オノでヒゲは剃れない」
です。


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