コハダのさばき方  

コハダの仕込み

 

コハダの仕込みは、最も寿司職人らしい仕事だとおいらは考えています。

仕込みのやり方に「コレ」といった決め手というか厳密さがありませんので、塩の加減、酢の加減、それらのやり方は経験による『勘』が大きなウェイトを占めます。従ってネタとして出来上がる頃には仕込んだ板前によってまったく違うものになるんです。つまり昔ながらの職人仕事が残ってる作業であり、この仕事で『職人勘』の有無が分かっちまうんですよ。

こはだ

コハダの仕込みを手を抜かずキッチリとやり、お客様に「旨い!」とおっしゃって頂くのが職人冥利に尽きる。そう考える鮨職人か、考えない鮨職人に分かれてしまうみたいです。

出世魚のコハダ

コハダは成長に応じて呼び名が変わる【出世魚】の一つです。

東京
4cm-5cmまでの幼魚→シンコ
7cm-10cmぐらいの若魚→コハダ
12cm-13cm程度→ナカズミ
15cm以上の成魚→コノシロ

新潟
ツナシ→ギュネンコ

愛知(豊橋)
ハンダ→コノシロ

高知
ドロクイ/ジャコ→ツナセ→コノシロ

地方名も数多く、変わったところでは北陸の「ベットウ」、山陰の「アマリカ」佐賀の「ハビロ」など。大まかに言うと関西では「ツナシ」、関東では「コハダ」になります。

語源的にはツナシが古く、日本最古の歌集「万葉集」に「つなし」の名が使われています。千二百年前の奈良時代ですが、残念ながら「つなし」の名がどこから来たものかまでは分かっていません。一方で「コノシロ」という音も奈良時代からあった様で、「後に「子の代」と「この城」を当てたようです。

「コハダ」の方は江戸時代から使われ始めた様子で、「コノシロ」という武家社会忌まれた音を徳川の世が嫌い、「こはだ」を当てたのではないかと考えられます。
「腹切り魚」で「この城を、食う・焼く」ですから武家では忌み魚でした。
また、焼くと死臭が人間と似てる事から嫌われた様で、その昔下野の国に逃れた有馬皇子が許婚のある娘と恋仲になり、ツナシを焼いて死んだと偽った歌が残っています。

「光もの」の例に漏れず栄養が優れた魚でもあります。
大部分はたんぱく質ですが、小骨ごと食べる特性からカルシウムが非常に多く、そのカルシウムの吸収を助けるビタミンD2も豊富。また目を引くのが鉄と銅の多さでして、これは貧血症に効果的で、ビタミンB12の多さがそれを補助します。脂肪代謝に不可欠のビタミンB2もかなり多いです。ですが握り鮨一個分では栄養価の摂取は期待できる量ではないでしょう。数匹食べての効果だと考えるべきですね。

関西では煮たりもする様ですし、古くは「紀州なれずし」などもありますが、関東ではなんと言っても「江戸前にぎり」です。江戸前寿司で光ものといえばコハダが代名詞ですんで。粟漬けも〆方は同じですしね。

寿司大好きのおばあちゃんが昔、「坊主だまして還俗させて、コハダの寿司でも売らせたい」なんて有名な歌を教えてくれて、「こんな歌があるくらいコハダの握りは人気があるんだよ」なんて言ってました。

考えてみますと他のネタとは違い握り寿司以外では食べようのない魚でもあるわけで、そのため小骨のあたるコノシロサイズは値も下がります。安くても普通の寿司職人は使いませんしね。ですから余計に「寿司の光もの」に特化した魚であると言えるんでしょう。

産卵はちょうど今頃、6月くらいまでですが、脂がのる旬は秋から冬です。では何故この時期に紹介するかと言えば、これの幼魚「シンコ」は江戸前じゃ夏の始まりを告げる季節ものでして、コハダ→夏って按配なんですな。

事実上旬はありませんしね。現在は流通網のおかげで各地から年中送られてきます。なにしろ国内だけじゃなく、アジアに広く分布してますから。

東京湾のがこの先も使える事を祈りたいですねぇ。
江戸前って言葉の意味が空洞化している今だから余計そう思うんですよ。

コハダさばき方と酢〆

届いたコハダは氷を入れた「真水」に浸けておきます。
他の青魚は塩水が好ましいですが、コハダは真水でもツヤが飛びません。

浸ける理由はウロコを浮かせて引きやすくする為です。コハダは皮の引けない魚ですからウロコをきっちり引かなきゃいけませんが、細かくて取り難いウロコですのでこうやって引きやすくするんです。

コハダを水洗いする

ウロコを引きます。
 

 

手早く。

頭と尾を落とし、背ビレと腹をカットします。
手順はイワシの捌き方を参照下さい。

このあと水を張ったボールとザルを使い、ウロコや血などをきれいに洗い流してから、次の捌きに移ります。

コハダを開く

腹開きにします。ここにさっと線を切りこみます。

頭から中骨沿いに素早く開きます

中骨をすき取ります。
(魚を返し背を上に向け骨を取る方法もある)

左右のガンバラ(腹骨)を取ります。

きちんと並べておくと後の作業が楽になります。

コハダをシメる

塩を振っておいたザルに身を上に行儀良く並べて塩を振ります。
(ザルに下塩をせずに皮に塩をつけながら並べる方法もある)

塩の時間ですが、これはもう勘です。コハダの大小や塩の溶け具合などで判断しますが、それでは説明になりませんので目安を書いておきます。
夏場で1時間、冬はプラス30分ほどで良いでしょう。

時間になったら流水で洗います。
表面の塩を落とすだけなので手早く。

古い酢(以前〆に使用した二番酢など)を使い「酢洗い」します。
酢に入れてかき混ぜる様に。

すぐにザルにあけて酢を切ります。

それから「本漬け」します。
かぶるくらいの酢を用意し、身を上にしてコハダを浸けていきます。
一番上は背を上に向ける様に。

その漬け時間も「職人の勘」ですが、夏で25分、冬で35分が目安。酢の温度に注意して下さい。温度が高いと背の光がとび、皮がはがれた見苦しいコハダになります。夏は充分酢を冷やす事。
おいらは【色】で時間を判断しています。

時間になったらザルにいったん取り出し、数枚を重ねて手のひらで軽く挟み酢を搾ります。きつく挟んではいけません。そのあとザルに並べてしばらく放置し酢切りします。

穴の開いたバットなどに並べてきちんとラップして冷蔵庫に保存しましょう。保存しておきますとコハダの汁と酢がバットの底に溜まります。これを放置しておくと「焼け」や、「味落ち」、「色とび」の原因になりますので、この汁を吸わせない様に注意して下さい。

鮨屋はこうして背中合わせにして保存します。

これは「光」が飛んでしまわない様にです。なにしろコハダは光物の代表ですからね。
※長期保存すると、身の方が黄色く焼けますが、これは脂の色です。これを避けるために「脂抜き」します。
腹開きにして、中骨を取る前の状態で流水に1~2時間さらします。これですと冷蔵庫でもかなり長期に保存可能です。冷凍保存も可能ですが、味落ちは避けられません。

「へいおまち!コハダです。握りたてを食ってくだせぇ」
〆たてのコハダの握りは最高

関連記事:コハダよりさらに旨い シンコ

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