捨て舎利  

捨て舎利

握り寿司の最低限の条件は「常に同じサイズに握る」事です。
基本中の基本と言うか、これができないとつけ場で鮨を握る資格がありません。寿司はお客さんに対し二貫をつける場合が多いですよね、そのときに左右で握りの大きさが違ってたんじゃ話になりませんので、まずはこれが出来る事が最低条件って訳です。

ところが、「均一のサイズ」に気を取られすぎて全体を失う寿司職人が後を断ちません。それが「捨てシャリ」になって表れます。

その「全体」と言うのはパフォーマンス衛生です。

 

捨てシャリとは

この捨てシャリに関しては昔から違和感がありますし、このブログには何度か握りの事も書いていますので言及すべきでしたが、今まで書いていないのは、ある有名な「グルメ漫画」にて鋭くこの問題が描かれているからです。何十年も続く漫画でして名を言えば誰もが知ってるほどですから、そこから転用したと思われるし、それは癪だって気がしますしね。なぜ癪なのかって言えば、あれは正論ではあるものの結局は「外部から見た感想」でしかなく、「寿司職人」の視点から描かれていないからでもあります。

なんで捨てシャリをしてしまうかは、最初に書いた「常に均一」にしなければならないからでして、目視にてシャリダマを微調整しているからです。その動作が習慣として身についてしまうという訳ですな。

この後、大きさを調整する為にシャリをちぎって戻す動きをし、その動作が「捨てシャリ」というわけです。

ここで先ほどの「全体」を少し考えてみましょう。

寿司のつけ場で握る仕事というのは他には無い特殊性があります。お客さんの目の前で口に入れる食べ物を作って出すというのは他に無い訳ではありませんが、生の魚を目の前で包丁し、それを商品にまで仕上げてすすめるなんてのは鮨くらいのもので、しかもその動作全体をお客さんに観られているわけです。

こんなケースでは「安心感」が絶対の条件になりますよね。生モノを食べるんですから、板前が自信なさそうにモソモソと作った寿司なんてのは口に入れる気になりません。

ですから堂々とした動作で信頼を得なきゃ成り立ちません。
猫背になって自分のヘソの位置より下でチョコマカ握ったり、お客に横顔みせてシャリ桶の上で握るなんてのはいけません。

背筋をピンと伸ばし、お客さんを正面にして、見える位置(ヘソから胸の間)で握ってみせなければならないんですよ。キビキビとした無駄のない動きになんなきゃいけません。それが鮨職人に課せられたパフォーマンスです。

これらの動作全体は「衛生」をアピールする事にもなります。
だらしのない格好でノロノロと眼前で作られた生の食べ物などに「衛生感」はありませんからね。「不潔感」を与えてしまえば致命的な商売なんですよ。

これらの事から捨てシャリがどうなのか考えてみて下さい。
一度掌に乗せたご飯をちぎってまた桶に戻す動作は、どう考えても美しいとは思えず、見苦しい動きでしかありません。しかもこれをやる職人を観察してますと、本来の均一なサイズにする目的は消えて、「クセ」になってしまってるだけなんです。

数年寿司を握っていれば、サイズを合わせるなど、「桶中」で可能なはずです。

  

  

この動作でシャリの大きさは調整できます。

シャリの大切さ

捨てシャリをする板前に共通する特徴をあげておきましょう。

それはしゃり桶の中の汚さです。

だいたい下の画像の様な感じです。

ご飯粒があちこちにへばり付いて見苦しいですが、これが何を意味するかは少し考えれば分かるはずです。ばらけたシャリはすぐに水分を失いカチカチになってしまいます。放置すれば極端な場合「生米状態」になります。それを握って出すなどあり得ない話ではありますけども、シャリ数個分を無駄にしてしまう結果にはなりますね。

ですから、サラシを使い常に「寄せて」これを防止するとともに、できるだけ「人肌の温度」を保つ様にするのが心ある寿司職人です。

要するに必要性の無い「捨てシャリ」をし、シャリ桶がご飯粒まみれでも気にしないってのはね、「シャリなどまったく意識していない」って事ですよ。

せっかく良い米を使い、神経を使って作ったシャリでもこれでは意味がありません。「シャリに六分の味がある」なんて言葉を持ち出すまでもなく、寿司はシャリとネタのバランスで成り立っている食べ物です。

こういった動作は「クセ」ですから、意識すれば直ることです。
自分の握る姿を鏡にでも映すか、またはビデオにでもして、よくよく考えてみる事をおすすめしたいですね。

また、初心者や見習い段階の寿司職人に言いたいんですが、あの捨てシャリの動作を、間違えても「カッコイイ」などと勘違いしてはいけません。

周囲には捨てシャリをする先輩板前が多数いるとは思いますが、自動的にそのクセを真似していいのかどうかを真剣に考えてみるべきでしょう。

大きく握る必要もある

均一に握れる様になれば、その先には「わざと大きさを変える」というテクニックも必要になってきます。

例えばお客がカウンターに座り、「あがり」を頼んだ時に、異様に小さいシャリに握って出してはいけません。お腹が空いているから寿司を食べに来たのに、変に小さいシャリでは面白くありません。

また、酒を頼まれる場合はご飯を大きくしてはいけません。肴として寿司をつまむ気であるかも知れないからです。

そして、テーブルやお座敷に運ぶ寿司をカウンターでつける寿司と同じサイズにしてはいけません。ネタとのバランスがとれた本来の握り鮨のサイズで握るべきです。

その場合でもセットものとお好みでは、セットを少し大きく握らなくてはいけません。

お客さんの顔を見て微調整できないからで、万人に合う理想的な寿司サイズにしておかなければいけないからです。それは「空腹だから寿司を頼む」という前提で考えるべきでしょう。

同じ意味で出前やテイクアウトも大きく握らなくてはいけません。

(出前は「水分が飛んで締まる」ことも計算に入れる)

女性と男性では美味に感じる大きさが違いますし、体格や年齢、その日の体調の良し悪しでも違ってきます。これらを瞬間的に判断し、お客さんの顔を見ながら徐々にシャリの大きさを変えて行く、それが一人前の寿司職人になるという事です。

自己本位にならずに、どうすればお客さんが満足して下さるかを考えて精進なさって下さい。

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