寿司屋が嫌う客


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寿司の「おまかせ」とは

例えば白木のカウンターのみでネタケースも無い、種はせいぜい十数種しかないが、どれもこれもしっかり目利きした旬の厳選素材を丁寧に手を抜かずきっちり仕込んだものを、あとは握るばかりにしてネタ箱に並べサラシを被せて保冷してある。シャリも人間の口腔温度になっている。

そんな店ならば「おまかせ」も「おすすめ」もありません。黙って店主の技を堪能すればよい。こちらから何か言う必要などまったくない。

こちらの食べ具合を見ながら絶妙のタイミングで極上の寿司を握って出してくれますし、〆る楽しみをお客に譲る為に満腹する7~8分目くらいで手を止めてくれます。そのときに何か一品二品食べたい物を言えばいい。

そもそもその店主が薦めたいネタ以外は置いていないし、それ以外の余計な寿司なんぞハナっから無いからです。

しかしまぁこんな店ははっきりいって「超高級鮨店」だけですし、こんなところにたびたび行けるもんじゃありませんね普通は。

一般的には「そこそこの鮨屋」に行くことになります。そして普通の寿司店は「お品書き」があるものです。ちゃんとメニューってもんがある。

にも関わらず必ず、こんな客がどこの店にでも現れます。
「適当にみつくろってくれ」

所謂「板さんにおまかせ」ってやつです。
自分から好みを注文しない。

その板と顔馴染みなら別段なんでもない事なんですが、初対面の板前にでもこれを言う人が必ずいるんです。

もしあなたがこのタイプならば、この行動は考え直した方がよいでしょう。

筋の通ったまっとうな板前なら対応に苦慮して困る事になる。
商売っ気のあるはしっこい板なら内心ぼったくれるチャンスとばかりほくそ笑む。
「鴨が葱背負ってるよ」

どちらにしても板前にとっては迷惑な客でしかないのです。
親方一人で静かにやってる小さな店でやる事であって、何人もの客をさばかなきゃいけない雇われ板がバタバタしてる様な店でそんな事する「場違い」さに気付かなきゃいけません。

おすすめ

外食店での「おすすめ」には二通りの意味が込められているものです。

一つは料理人が自信を持って作った自慢の品。
もう一つは「ちゃんダネ潰し」

※〈ちゃん〉とはアニキの事。アニキ(兄貴)とは仕入れた日付けがいってる食材で、日付の若い食材はオトウト(弟)

要するに正反対の意味があるわけで、「おすすめ」をどちらをの意味で使っているかで我々はその店の姿勢や品格がたちどころに分かります。

勿論商売ですから仕入れた食材はロスする事なくすべて売り切らないと帳面が狂ってきます。しかしアニキなんて言葉がある様に、食品というのは時間が経ちますと値打ちが低下し最後は腐って使えなくなります。

腕のある板前はそうなる前に〈付け出し〉などで一品に変身させて使い切ってしまうものですが、ぼやぼやしてると品質は低下していきます。そうなってから安価なランチ、最後はスパイシーな揚物やどぎつい煮物にして売ってしまえってのが「おすすめ」だったりするわけです。

現実問題として今の寿司屋は「本当のおすすめ」と「さばいてしまいたいオススメ」、この二つの間を行ったり来たりしながら板前が腕をふるっている状態です。どこに傾くかは板前次第でしょう。

本来は薦められる料理しか置いてないのが当たり前で、そうでなきゃ鮨屋の看板をあげる必要もない。つまりわざわざ「おすすめ」をアピールするのは考えてみれば変な話なんですよ。悪習慣かも知れません。

しかしながらそれが出来るのは最初に紹介した超高級店くらいのもので、実際には理想論にすぎません。

鮨屋に行ったら「おまかせ」は禁句だし、できれば「おすすめ」など置いていない店がいいですよって話です。

自分が食べたい鮨を、食べたい順番に注文すればいいのです。

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手前板前.魚山人:The person who wrote this page筆者:文責=手前板前.魚山人