板前の偏屈舌  

板前の偏屈舌

ワイン

ワインってのはだいたいにしてあまりの不味さに吃驚仰天、一瞬にして料理の味を全てぶち壊してしまい、そいつを真顔で薦めてくれたソムリエが宇宙人に見えたりするもんです。もう向こうに行ってくれって感じですな。それでもさらにしつこくすすめるソムリエもいて、ぶっとばしたくなったりしますが。

この種のやろうどもはいったいどうやってソムリエ資格を取得したのか、試験の基準はどうなってんだと言いたくなる。 この手合いは商売に重きをおくビストロに多い様ですなどうも。この種の店ではグラスワインを頼んではいけませんよ。ぼったくられます。
オードブルが出る前の付け出し(アミューズグール)の段階でシェフの気合いとソムリエの程度が分かりますんで、アペリテェフの後は耳を貸さないことです。

その反面呆然とするほど美味いワインがありますが、そんなもんはまぁお安くはない。メチャクチャな味の差がワインの面白さかもしれませんがね。
ボトルが小売価格の3倍くらいまでの値段設定ならばマトモなレストランだと考えてよいでしょう。自分が知っている奴をボトルで頼みましょう。(良心的な店は仕入値の三倍くらい)

 

檄辛

自分が知っている範囲内ではトンガラシ好きの板前は皆無です。
檄辛ブームなんてのがありましたが、冗談じゃねぇってんだ。
真っ赤なスープのラーメンなどを見るとゾッとします。
(ひそかに食っている若い板前もいたようですが信じ難い)

キムチは旨いと思うが国産のキムチ(一般的市販品)は大嫌いです。
トンガラシと添加物の液に野菜を漬けただけですんで。
韓国産とは別の食べ物。

病的脂

全身トロとかいう最近の養殖マグロ。
30~40キロのサイズしかないのに卸してみたら白っぽい脂だらけ。
こんなもんまだガキですよマグロとしては。
早熟もいいとこ、気持ち悪いってんだ。成長ホルモンかって。
おいらの好きな赤身が殆ど無いんでキレてしまいます(笑)

座るなり「トロ!」ってくるこまっしゃくれたガキばかりのご時勢。
「板さん、赤身下さい」って子供さんにゃ思わずサービスしたくなったりして。だって可愛いもの、その方が。ついでに親御さんの好感度もアップします。

でもねカラスガレイのエンガワと同じ事。
回転覘くとエンガワとトロが飛ぶように売れてる。
最近の人はこの方が美味しいらしい。
なんでこんなに脂が好まれるご時勢なんでしょうねぇ。
牛肉の影響もあるでしょうな。ファストの隆盛と時期が重なるし。

以前アメリカ人の料理専門家とこんな会話をしました。

おいら
「日本の霜降り牛を網焼きにしてガイジンさんに食わせてみた。自信満々で、こんな牛はおたくの国にはないだろうって感じでね。なにしろ箸で肉がちょん切れる。凄いだろうって事。そのガイジンさんは目を丸くして驚いたって話があるが」

アメリカ人
「驚いたんじゃなくて、あまりのバカバカしさに声が出なかったんだよ」

味以前

名人の腕を持つ鮨屋は少なくありません。
素晴らしい品を出してるところは自然に耳に入ってきます。
おいらは自分の目で確かめないと駄目なタチですから出かけます。

以前こんな事がありました。
お土産の箱寿司が評判の店。店に入ると美味そうなモンを食べてるお客さんの膳をチラリ。
「こいつは間違いない。良い仕事してるよ」
ところがトイレに立つふりして奥の厨房を覘いてみましたらね、主人らしき職人が箱を圧してるわけ。その手元に光る物をおいらは見逃しませんでした。結婚指輪をはめたまんま仕事をしている。洋食のコックでもあるまいに、直手の鮨屋がそんな事しちゃいけません。

おいらは注文をキャンセルし、とっとと店を出ました。
他にも手に絆創膏をした板が出てくる店でも即座に席を立って帰ります。

食事の楽しみ

子供の時間ってのは一日が短く感じるもの。
しかし日々が楽しいから一週間単位の経過が遅く感じる。

その反対に大人は一日が長い。
なのに一週間単位はあっという間に過ぎる。

これは要するに仕事が楽しくて楽しくて仕方ないって大人はほどんど存在しないって事でしょうな。時計の針が進まない気がするのが普通で、ガキの放課後でもあるまいし、あっという間に時間が過ぎるって人は少ないはず。大人と子供では時間の密度が異なるわけですよ。

つまり多かれ少なかれ仕事は苦痛に感じるもので、芯から楽しいものではないが、義務として続けないわけにはいかないってことになりましょうね。

そんなのは何かの楽しみがなきゃとてもじゃねぇがやってらんない。
それが仕事が終わった後の一杯であり、美味いメシだったりする方が多いはずです。それが人としての楽しみですよ。

ところが料理人はその楽しみを楽しめない不幸な人間が多い。
一種の職業病でしょうな。メシが美味く感じないんですよ。
分かやすく言いますと鮨職人は仕事上がりに寿司屋に行かないって事。朝から晩までいじくってるモンを食う気にはなりません。ですんで簡単な家庭食は食っても、手の込んだ料理を食いたいとは思わない人が多いわけです。

おいらの場合はどうかと言いますと、日常的には作って食わせる家庭食が楽しみって事になります。大メシ喰らいの実験台が存在するんで多幸とすべきでしょう(笑)

それでもたまに猛烈に自分で食べたくなる時がないわけではありません。
そんな時はママゴトの様な小さい器を並べます。その器に自分の好きなものだけを少なくとも10種類くらい作って盛ります。

チリメンに大量のおろし大根とか、メカブ納豆とか、豆乳寒天とか、大豆とヒジキの浸し煮とか、割り干し大根の刺身とか、コンニャク芋の晒しトロロとか、クサヤとタラコの海苔巻きとか、シジミの味噌汁とか、ウロコと骨の煎餅とか、キンメの目玉の燻製とか、ハモの骨と笛の清汁とか、アユ鰭や鮭鱗の陰干しとか、豆腐容とか、サバ頭の大和汁とか、牛蒡のぶっ叩きとか、まぁそういったものです。この一年の間一日一食しか食べていませんので、これだけ種類があればママゴト器でも満腹します。

こうしたものを家庭で少量ずつ作るのは板前とて簡単ではありません。
上に挙げた品の中にはハモの骨とかキンメの目玉とか実際には家庭では不可能に近いものもあります。そのへんが和食料理人の特典ですな。板前の仕事をしていてよかったと感ずる場面です。

鱧骨汁

陰干しにして炙って風味を出し、臭みを押さえたハモ骨で作った濃い味の酒清まし汁。賄い用に作ったのを少しかっぱらって(笑)持ち帰りです。

2009年06月05日

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